|
----------------------------------読 後 放 談 (6)----------------------------------- |
|
「ダブルダウン」岡嶋二人。リング上で対戦しているボクサーが二人ダウン。・・・つまりダブルダウン。(^_^;) しかし、格闘の末のダウンではなかった。青酸は使われた毒殺であった。元ボクサーの評論家、出版社の編集者、雑誌記者の3人がその謎を追う。
もう云うまでもなく岡嶋節のミステリーですから今更なんですが、本格派とはちょっと趣が違う感じですね。謎が多くて先が見えてこない暗闇の中、手探りをしているとコロコロと蝋燭が転がって来ました。触ってみるとロウソクだ。しかし、マッチがない。また手探りで進むと何かにぶつかり、その拍子に壁の隙間からほんの小さな明かりが。明かりを頼りに見回せば壁の下に何とマッチが。マッチを取ってロウソクに火を付けようとしたら風のせいか閉じられていた窓が開き陽が差し込んできた。・・・と、まあこんな調子ですが、一つの謎が明かされそうになるとまた新しい謎が・・・と、たたみ掛けるような展開に釘付けです。ただ動機が少し苦しいかなと・・・(^_^;) |
「記憶の隠れ家」小池真理子です。家と記憶をテーマにした短編集。(1)刺繍の家(2)獣の家(3)封印の家(4)花ざかりの家(5)緋色の家(6)野ざらしの家、以上6篇収録。「家」に形容詞が付くとミステリアスになりますね。ホラーなんかにも多いです。人が永年住んで知る家、喜びも悲しみも、そして怨念も全て見つめてきた家には全ての記憶が保存されています。人が心の奧にしまい込んだ記憶の扉が開く時、新たなストーリーの歯車が回り始め呼び起こされるあの時の時間が家を包み込むのです。扉を開く事が出来るのはあなただけ。 |
推理アンソロジー「絶海」。恩田陸「パズル」、歌野晶午「生存者、一名」、西澤保彦「なつこ、孤島に囚われ」、近藤史恵「この島でいちばん高いところ」以上4篇が収録されています。いずれも絶海の孤島とまでは行かなくとも離れ小島でのミステリー。本格物ですと入る事も出る事も出来ない孤島の事件と云えば、よく引き合いに出されるのが密室殺人になりますが、ここではその危機的状況の中で生き延びるには・・・の、ようなサバイバルミステリーとでも云いましょうか。スリルとサスペンス溢れるハラハラドキドキの作品ばかりでたっぷり楽しめます。 |
「ゲームの名は誘拐」東野圭吾です。久々に楽しい(?)ミステリーを楽しみました。(^_^;) いやあ、なかなか斬新な手法です。誘拐物は時代遅れじゃないぞ。これだから東野ファンは離れられないのだな。ひょんな事から始まった狂言誘拐(と、云っても脅迫を受けている家族側からは本物の誘拐ですが)ですが、これが犯人側の動向からだけしか書かれていませんので、被害者側の動向(主に警察の動きになるのでしょうけど)が一切分からないまま身代金の受け渡しまで持ってくるのですから、まさに(犯人側の気持ですが)ハラハラドキドキしてきます。いくら人質と犯人が結託していようと、読者は言うなれば悪側に立つわけですが悪い事を応援している後ろめたさを不思議と感じないのです。
広告宣伝業務のプロデュース会社に勤務する佐久間は大手自動メーカー日星自動車の新車売り込みのプロジェクトチームのリーダだったが、日星自動車副社長の葛城の横やりからリーダを外される。やけ酒を煽った勢いで葛城の住まいを一度見てやろうと深夜葛城の自宅近くでタクシーを降りたのだ。様子を伺っている佐久間の前に葛城の屋敷の塀を乗り越えて出てきた若い女性に遭遇する。彼女を尾行したのち接触すると、葛城のの妾の娘とわかる。境遇に不満を持った娘と佐久間は狂言誘拐を思いつき実行に移すのだ。果たして誘拐はうまく成功するのか・・・と冷酷な犯罪であるはずなのに人畜無害のようなミステリーの始まりですが、これが結構にハラハラするのです。まさにゲーム。
犯人側にたってストーリーを展開させる手法は特に新しい手法ではないのですが誘拐事件を持ってきたところに(実は誘拐事件が必要でもあるのですが)面白みがあり、相手方の動向が一切知らされていない所が重要なんですね。どんな事件にしても犯人は誰か?(犯人が割れていても動機や犯行方法など解明)と云う最大の謎こそ読者を引きずり込む牽引力で、同等のものが無くては読者を引きずり込むなんて出来ないわけです。誘拐犯がわからだけで描けば事はその代わりになる程のものであり得るわけがないのですが、どうして引きずり込まれてしまうのか不思議ですね。誘拐が成功するかどうかだけでは無理が有りすぎますものね。そうなんです、実はミステリーファンならずとも、何処かおかしいぞと危険シグナルが鳴っているのを感じるからなのです。おかしいと感じつつも何処がおかしいのか分からない、このままじゃ済みっこないと予感しつつも先が見えない、まさに警察の動向が見えない誘拐犯のごとく作者の思惑が見えてこないのであります。それこそがこのストーリーの吸引力なんですね。ここは無駄な抵抗は止めて流れに身を任せるしか方法はないようです。
ひとつだけ伏線なのでしょうか、誘拐の犯行声明をFAXするのですが、その前に娘が父親が帰っているか屋敷を見てみたいと要求するので、危険を顧みずタクシーで二人は屋敷の前を走行します。・・・、この意味が最後まで解かれないのですが、どんな意味があったのか気になっています。見落としたのかな?。まあ、そんなわけで未読の方に申し訳ないので多くは語れませんが、一ひねりも二ひねりも有りますので期待は裏切られませんぞ。ご都合主義のように、人質が自ら飛び込んで来るので「瓢箪から駒」のように出来すぎた設定と思ってしまいそうですが、巧みに張られた伏線は伊達じゃありません。「瓢箪から駒」はどっちの話じゃ〜と、どんでん返しが待ちかまえていました。お見事!。 |
恩田陸「光の帝国」です。副題に「常野物語」、連作短編小説です。宮城県の某所にある常野には昔から特別な能力を持った者たちがひっそり暮らしていたのだが、不幸な出来事によりそのその地を後にし、能力を隠して世間に散っていった。その者たちのそれぞれの今の生活を綴った連作・・・と、簡単に説明するとこうなります。相変わらずの恩田陸の世界です。まあ、簡単に云えば超能力がテーマのSFとなってしまうのですが、そうは問屋が卸さないのが恩田陸。実に摩訶不思議な感動です。この手の定番ですと色々な超能力者が敵対する悪の権化みたいな者と難問を切り抜けながら戦ったり、事件を解決したり・・・みたいなお話になると思うのですが、この本は一筋縄では行きませんよ。世の中にひっそりと溶け込んだ常野の人々のその後であったり回想であったり再確認であったりと事件性は無いと云えば無く(抱えている問題はありますが)最後にゴールが来るわけでもないのです。連作なれどつながりは見えてこず、全く予測がつきません。
そんな散りじりバラバラな連作を空から地上を見るように、木を見ず森を見るように、部分より全体を見るとおぼろげながら形が見えてきます。ところが、そうやってやっと見えそうになった時に幕が引かれてしまうのですが、作者の後書きを読むとなるほどと頷けるのですね。そうか、これはプロローグなのかと。だから繋がらないのだ。これから始まる物語の前兆なのです。プロローグでこれですから、先を想像すると否応なく壮大なドラマが見えてきそうです。台風の前の静けさ、その静かなる不安定さ故の不安と恐怖の時間が刻まれている本なのです。 |
井上夢人「あくむ」。帯に「読めば二度と眠れない。眠れば二度と目覚めない」と、それはそれはコワイキャッチコピーが。こんなにコワイコピーに出会ったのは初めてだぞ〜。びびるじゃないか、まったくぅ。さてと、中身は小説すばるに掲載された次の5篇の短編であります。(1)ホワイトノイズ(2)ブラックライト(3)ブルーブラッド(4)ゴールデンケージ(5)インビジブルドリーム。
カタカナの題名で統一されたテーマは違えど摩訶不思議な小説でした。なんたって帯のコピーでびびっているものですから震える手でページを一ま〜い、2ま〜い、3ま〜い、・・・とくくって行きましたが、トイレにも行かれましたし、思った程心配ない安全な本でした。(^_^)v 岡嶋二人の時のような有る意味緻密な本格ミステリーの面影はありませんで、まあそんな事がホントに起こったら眠れない所じゃ無いぞと恐くもありますが所詮絵空事ですからねぇ。何というか超常現象だってリアリティってなもんも欲しいわけでボクにはその辺が余り感じられなかったわけです。こんな事を云ったらなんですが、お暇つぶしには良いのじゃないでしょうか。「読めば二度と眠れない」という事は無かったのでこの部分、ちょっと過大広告ぎみかしらん。「眠れば二度と目覚めない」・・・コレはありましたが、地震でも起きないのは昔からで、寝付きの良さと寝たら起きないのは専売特許のようなもので、すっかり身に染みついています。ですので、このコピーは過大広告なのか、ホントに本の影響なのか計りかねるところがあります。 |
「てのひらの闇」藤原伊織。ハードボイルドだ。不況の嵐の中、飲料会社に20年間勤めた会社員がリストラで退職を決心する。そんな時、突然会長から名指しで呼ばれ退職前の最後の仕事を依頼される。社内では公には知られていないが、入社で会長とは秘められた過去があった。最後の仕事に取りかかるものの突然会長は自殺を遂げ、自殺の謎を追い始めるのだ。
普通の会社員(離婚して現在は独身)が事件に巻き込まれるパターンではありますが、実は普通じゃないのですね。そりゃ、そうだ。ハードボイルドだからして、腕に覚えがなきゃ危機を乗り越えられないだろうし、それ以前に度胸も必要だろうし、女性の胸を振るわす渋さも欲しいし、気の利いた台詞の一つもしゃべらにゃならんだろうし、酒も強くないとならないだろうし・・・・スタイルだって、センスだってなくちゃね。よくまあ、20年間も真面目に会社に勤めたと、その辛抱強さには頭が下がります。・・・あ、別に非難しているわけじゃなく、ふとごく普通のサラリーマンが事件に巻き込まれたら、それこそハードボイルドじゃないかなと思ったりしたもので。
実はボクの友人ですが子供が近所の空手道場に通い始めて、何気なく休みの日に付き添って行き、遊びのつもりで参加し始めていつの間にか段を取るまでになってしまったわけです。それまで全く格闘技など縁もなかったし、本人も興味など示すことなく来て、軽い運動の気持で始めた空手です。中学から友人ですが、いままで喧嘩などした事も無かった普通の、むしろ色々な面で消極的な人柄でした。勿論、性格は今も変わらないのですが、腕に覚えが有るというのはすごいモノです。実は痴漢を数人捕まえています。車内や街の狼藉者にも平気で注意の声を掛けられるのです。カレの奥さんは物騒な世の中だからナイフなど持って居るとも限らないでの止めてくれと言っているようで、最近は自重しているようですが見つけた痴漢などは捕まえて突きだしているようです。で、話を聞くと捕まえてはいるが、一度も暴力沙汰にはなっていないそうです。つまり腕試しにもなっいていないのに、相手は抵抗しないそうです。これは道場で大会などにも参加しているようでかなり力はあるようですが、その自信が相手に見えるのではとボクは想像するわけです。自信は人を変えますね。
誰だって痴漢や迷惑を掛けている者へ注意の一つもしたいところですが、心とは裏腹に非力な力を自覚すれば二の足を踏んでしまうのが常です。仕方ないです。正義は昔から暴力、権力には弱いのです。泣く泣く、無念さをかみしめて頭を下げるばかりの正義は情けなくもあり哀しくもあり空しいだけの言葉の世界なのでしょうか。まさに現実の世界でもミステリーの世界でも正義を貫かせるには力が必要であり、力のない正義にリアリティが持てないのであります。・・・と、すれば一市民を主人公にしたハードボイルドでは力を持たせる事は必要不可欠とも云えるのであります。ライオンは静かに爪を手のひらで隠して時を待つのでした。・・・そこは闇。 |
加納朋子「沙羅は和子の名を呼ぶ」です。表題を含めて10篇が収録。(1)黒いベールの貴婦人(2)エンジェル・ムーン(3)フリージング・サマー(4)天使の都(5)海を見に行く日(6)橘の宿(7)花盗人(8)商店街の夜(9)オレンジの半分(10)沙羅は和子の名を呼ぶ。
今まで読んできた加納朋子作品とは少し趣が違うようです。日常生活の中でのミステリーから非日常と云うか超常的と云うか・・・。話の発端とかベースはいつもと同じようなのですが、解かれていく謎は元の日常に戻らず非日常の世界へ迷い込んで行くのです。でも決して不条理に感じることなく、「そんな事もあるのだろうな」みたいに感じてしまうのは何故でしょうね。底流に見え隠れしている愛が非日常の世界への扉のように思えます。 |
i宮部みゆき「あやし」です。「塙保己一」を読んで刺激を受けたかな?。江戸の町が恋しくて恋しくてさ。おいらは、ホントに宮部姐さんが描く江戸の町が大好きなんだな。芸が細かいというか、ちゃんとしていると云うか、まあ、正式な時代小説とでも云ったら良いのだろう。台詞の語り口は当たり前としてもト書き・・・じゃない、台詞以外の話しぶりも、江戸にあわせて違和感なく書かれていて、全てそつなく書いてある。読むと分かるけどちゃんとテンポがあるんだよ。しかし、なんだな相変わらず長屋やらおたなの習わしや江戸の道筋などがよ〜くわかっておいらも江戸通になれってなもんさ。
「あやし」はそんな江戸の町に起きた摩訶不思議なコワイお話を集めた本なんだなな。(1)居眠り心中(2)影牢(3)布団部屋(4)梅の雨降る(5)安達家の鬼(6)女の首(7)時雨鬼(8)灰神楽(9)蜆塚の9偏が収録、中身がいっぱい詰まってる。今じゃ祟りや怨念なんてありゃしないてぇのは科学の御陰か何か知れねぇが周知の事実らしいが、江戸の頃は当たり前にそこら中に有ったってわけさ。まあ、起きてもおかしくないような時代だったからねぇ。まあ、恐くて厠には度胸を出さないと行かれない事もあるけどさ。
ところで、これを書いている途中に「WOWOW」で上手い具合に山本周五郎作市川昆監督、主演岸恵子の「かあちゃん」がはじまっちまって、ついつい見入ってしまい、しまいには終わりまで見てしまったわけだ。これが何の因果か、仏のお恵みか、長屋話でさ〜・・・。おいら、泣けちまったぜ。こんな映画、有ったんだな〜。ますます江戸が好きになったじゃねぇか、こんちくしょう!。グズッ(^_^;)
景気が悪くて海外旅行も行かれないし、車も買い換えられないってか?。てやんでぃ、江戸を見ろってんだい。何か勘違いしてるんじゃねぇのか。・・・その内、コワイコワイ、バチが当たるぜい! |
何かと忙しい年明けです。正月らしく(?)時代小説でもとひもといたのは「塙保己一推理帳」中津文彦です。検校まで登りつめた盲目の学者「塙保己一」が江戸の町に起きる事件の謎を解きます。(1)観音参りの女(2)五月雨の香り(3)亥の子の誘拐、の3篇が収録されています。謎解きもさることながら江戸の町の情景や奉行所の仕組みなどなど当時の様子を窺い見れる楽しさも有ったり知識も得られて別な意味で楽しめたりします。「耳袋」で知られる南町奉行根岸肥前守は宮部みゆきでも登場するお馴染みのメンバーも居たりして、つくづく江戸の町は狭いと思ったり・・・。ミステリーも楽しみながら江戸の散策もおつなものですよ。 |
大病院の副院長の高校生の娘が誘拐される。犯人は病院に入院中の裁判中の被告である外食産業の経営者の命を要求してくる。時を前後して19歳の大学生が誘拐され犯人から被害者の生爪が送られてくる。犯人の要求は先の誘拐事件で命を要求された外食産業の株を7千万円分であった。管轄違いの警察がそれぞれ事件に着手するもの、刻々と要求の時間が迫って来るのだった。2つの事件は繋がりがあるのだろうか?、事件は過去へと遡るのだ。
人質の生命を優先させる誘拐事件、双方とも人質と引き替えの要求が誘拐事件の犯人逮捕の数少ないチャンスを潰せるものだけに捜査陣は追いつめられていきます。まして、病院長の娘の誘拐事件の要求は金銭授与がないわけで犯人との接点が全く取れないのです。いかにして問題をクリアしていくか、手に汗を握る展開が続きます。
正月ボケの頭に刺激を与えるには手頃な作品ですね。刺激が小さいとボケた頭を起こす事も間々ならず、考え込むような刺激には耐えられる筈もなく、大きすぎてはそのショックの影響が他にも及ぼしそうで危険だしと
目覚めにはピッタシです。ちょっと長めなのがつらい所だけど目の活字慣らしにもなりますしね。
今年はどんな出会いがあるのか。では、し〜ゆぅ〜あげいん。 |
本書「魔法飛行」は「ななつのこ」の鮎川哲也賞受賞後の第一作目であり続編でもあります。主人公は七つの子と同じく女子大生の駒子。探偵役は変わりますが短編の連作で長編仕立てというレシピは同じですね。相変わらずというか、この爽快感と感銘感(感銘感なんて言葉、ある?)は一体何処から?何故? 今回の解説を有栖川有栖氏が書いておられますが、これが何と的を得た解説なのでしょうか。すごい、おまけだ。
色彩で云うならパステルミステリーとでも云いたくなるような原色のないカラーで包まれた加納ワールドは、実は説明するのが難しいのです。右と左、黒と白、と明快に言い切れない辛さって、たぶんこの中間色のカラーにあるのではないかと思うのです。ニュアンスから感じろよ・・・みたいな部分が多くて。それでいながら方向性はしっかり見えていて読者は思う壺にズッポリと・・・。そして全てはミステリーのレールから外れないのですからねぇ。主人公駒子は最後に鬱積していた現状逃避だと思っていた自分の心が実は新しい出発の旅立ちと見極める事が出来ました。まさに魔法飛行。加納ワールドは可能ワールドでもあるのです。
一人の作家を見つけるとアル程度まで追っかけないと済まない性格なのですが、ここ数年はあれこれと取り留めの無い読書でした。読まず嫌いみたいなものもあるので、たぶんまだまだ見落としてる作家も多いかと思います果敢に当選しなくては! |
第39回江戸川乱歩賞受賞作「顔に降りかかる雨」で村野ミロは成瀬時男と1億円と共に消えた親友を追った。・・・ラストの空港でミロは成瀬を司直の手に渡し父親の跡を継ぎ新宿で探偵家業を始めたのだった。まさにハードボイルド、村野ミロ。・・・それから6年の月日が経ち「ダーク DARK」の幕は開く。
桐野夏生「ダーク DARK」。一億円と共に消えた親友宇佐川正子の母親からミロに今老人ホームに入所したという転居通知が届く。手紙に久しぶりに会いたいとありミロは千葉のホームへ向かい、そこで成瀬が獄中自殺した事知る。自らの手で司直へ渡したミロではあったが成瀬の出所を待つ事だけが生き甲斐のようになっていた。成瀬の自殺は父、村野善三も知っていた事を知り隠していた怒りとそのわけを聞くために隠居元の北海道へ向かう。そこで自分と同じ年の眼の見えない久恵と云う女と暮らしている父と会うミロは怒りのたけをぶつけるのだが、突然発作を起こした父を見殺しにしてしまうのだ。ミロはそこを飛び出し死に場所を求めて逃げ出すのだが、父親村善の朋友で元暴力団幹部の鄭、新宿時代のおかまの友部、そして父親の愛人久恵の3人がミロを追う。博多、韓国、大阪、東京と息もつかせぬ物語はハードでヘビーでダークに展開して行くだ。
冒頭に挙げた「顔に降りかかる雨」、2作目の「天使に見捨てられた夜」、村善の「水の眠り 灰の夢」そして「ローズガーデン」と活躍してきた村野ミロ、村野善三の最終章(たぶん)になるのであろう「ダーク DARK」は云うまでもなくハードボイルドだった。ミロを追う3人の存在感が溢れるキャラクターが何と云っても良い。この不気味さが有ると無いとじゃ大違いだろう。そして同じく存在感たっぷりに描かれたミロが愛する韓国人徐鎮浩がまた良い。生い立ちがかなりのページを費やして書かれているが、これも有ると無いとじゃ大違いで韓国の世情を知らしめるのにも一役買っている。大きな舞台となる韓国釜山、海雲台、ソウルもまた良い。新宿、池袋とじゃ大違いだ。「良いと」「大違い」だらけなのだから面白くないわけがないのだ。「OUT「で見せた女の強さはここでも生きている。幾ら腕力で勝っている男でも到底太刀打ちできない強靱な神経は何処から来るのだろうか。こうなって欲しいと想うミロ像は所詮男から見たミロ像、それを覆しても余りあるその部分こそ感動を呼んでいるエキスではないだろうか。強さは弱さ故であり、もがき苦しむ中から生まれた強さだからこその重量感を持つのだ。文中「生んだら女の勝ちだよ。男だって女から生まれてくるじゃないか、そうだろ」と。確かにその通りだ。 |
短編連作ミステリー「月曜日の水玉模様」加納朋子です。7篇収録されています。「火曜日の頭痛発熱」「水曜日の・・・」のように月曜日から日曜日まの7篇で、題名の頭の「何々曜日の」を取って順に頭文字を読むと「みずたまもよう」となるお遊びも隠されていたりします。
加納朋子を読んだ方はお分かりだと思いますが、短編の連作で1編1編は完結しつつ全体に連ねかられるものがあり、各編は当たり前とも云える日常的謎の解明ですから感想を書きようにもネタをばらしかねない危うさ故に、ならば全体と云っても各編有っての全体でして敢えて語ろうとすれば加納朋子作品共通の言葉でしか言い表せない故に、簡単には評せない難しさが加納朋子作品にはあります。では、人に薦める時にどのような言うか、改めて考えてみるとただ「読んでみて」としか云いようがないなと思うのです。加納ワールドの解析は各本の後書きにそれぞれ納得出来るものが寄せられています。これの一読もお薦めですね。
加納ワールドへ踏み入れて間もないのですが、どうやらズッポリはまり込んだようです。もう少し踏む込まないとまともな感想が書けそうにもありません。月並みの言葉の羅列になりそうです。でも、今回も一言だけは書かないと・・・。実に素晴らしい! |
ファンというか虜になってしまった加納朋子「ガラスの麒麟」です。本当にボクの中では宮部みゆきを凌ぐのではと思われる程に素晴らしい作家です。いつも言うようにミステリーとか冠を付ける以前の小説として文句なく完成されていますから、どんなテーマを持ってこようと揺れ動かない安定感がありますね。よくある妙な詩的、文学的表現で興ざめさせられることなく平坦でありながら選び抜かれた言葉で綴られる文章力には快感を感じます。
女子高生が通り魔と思われる犯人に殺害されるというショッキングな事件から幕が開きます。被害者の友人の女子高生、その父親の友人の息子、担任教師、卒業生と視点を変えながら次々と起きる謎や事件を連作で語られ最後の作品で一連の事件が一つのまとまるという短編の連作であるものの終わればちゃんと長編に仕上がっている優れものです。女子高生が通う学校の養護教諭が探偵役をしていますが、実は被害者であり加害者であり、探偵だったという感動のラストを迎えるのです。一作一作がお座なりにならずきちんと作られています。またその様な丁寧な執筆が伝わって来るような作品に中身の面白さと相まって感動するのです。 |
恩田陸の「木曜組曲」。4年前に自殺した耽美小説家の家に自殺した日に居合わせた4人の縁故の女性が訪れた。自殺した作家と同居していた編集者の女性と合わせて5人の女性は送り主不明の花束をきっかけに4年前の事件を語り始めるのだった。本当に自殺なのか?集う洋館は暗闇の中へ溶けていった。
これまた一幕物の舞台劇のような構成ですね。事実、5人女性が集まった洋館の数部屋しか舞台になっていないのだから。各々が語る新事実から浮かび上がってくる真相・・・・こんなシテュエイションのお話っていくつか挙げられそうです。あまり派手な展開が望めないのでいかにミステリアスに仕上げるかが大きなポイントでご多分に漏れず雨や雷みたいな装置も欲しくなるわけだな。だいたいが回想と告白からなるわけですが、告白された内容の正否は他者の告白や回想の整合性で見るわけだから、あまり凝るとわかりにくくなってしまう傾向がありますね。また登場人物も書き分けられていないと何が何だか分からなくなります。東野圭吾の「むかし僕が死んだ家」では男女の二人ですから迷うことなくたっぷり味わいました。「木曜組曲」、もちろん迷うことなくページをめくる手も止まる事無く十分楽しめるのですが、期待しすぎのせいか少し物足りなさを感じてしまいました。驚くようなどんでん返しもなく恐怖の味がもう少し欲しかったな。まっ、集まった女性がとても良い人たちなので仕方ないですね。悪魔が居なきゃ恐くないはずだ。 |
横山秀夫「顔 FACE」です。同氏の短編集「陰の季節」の中の「黒い線」で失踪した婦警、平野瑞穂巡査のその後が書かれた連作を一つにまとめた本がこの「顔 FACE」です。機動鑑識斑の平野瑞穂は絵の腕を買われて似顔絵婦警として活躍していたが、ある事件で似顔絵から犯人逮捕の功績を挙げた直後に失踪してしまった。平野巡査を追う先輩婦警七尾は失踪の原因を探る。実は目撃者よりの聞き取りで描いた似顔絵は似ておらず、別な証拠より割り出された犯人の顔写真から命令によって書き上げられた似顔絵で犯人が捕まったようにマスコミに流された為だった。警察内部の面子にこだわる手法に疑問と失望を感じた平野巡査は身を隠してしまったのだった。実家に戻り休職という場面で「黒い線」は幕を閉じたのですが・・・。
心の傷を抱えながら復職したところから本書「顔」は始まる。失踪騒ぎを起こしたために平野瑞穂巡査は広報公聴課に配属され、鑑識課に復帰したい希望を持ちつつ事件に当たるのだ。以後、捜査一課犯罪被害者救済支援室、そして捜査一課の刑事と移動するも警察内部での婦警の置かれている立場であるとか警察官の有るべき姿とか、事件と本来関わりのない問題をも提示しつつ見事なミステリー仕立てで話は繋がれていく。婦警から見る警察内部の話が絡まり実話と見間違う程のリアリティを持って進行するストーリーは他に無い緊迫感と現実性を感じさるよう。またヒロインでありながら不完全で間違いも犯すし精神力のひ弱さまでもがあからさまに語られ、果たして応援の甲斐があるのかと不安にさせられるのだから読者も途方に暮れてしまうのだが、何とか踏ん張って進んでいく姿は等身大の存在感があって現実的に見えてしまうのです。犯罪自体も荒唐無稽なものではなく、普通に見聞きする事件ばかりなのでの現実感は一層増すようです。 警察社会という特別な世界を描いているミステリーでありますが、読む進めば決して特別な世界の出来事ではなく身近な問題でもあるのだと気が付いたりもします。プロローグとエピローグ、これが有ってこその本書ではないでしょうか。 |
恩田陸「puzzle パズル」。周囲3キロ、高い堤防に囲まれた中にはかっては数千人が住んでいた廃墟があった。無人のその島で死体が3体発見された。事故死とも自殺とも殺人ともつかない死体。謎を解くべく二人の検事が桟橋に降り立った。
朽ち果てた廃墟の様子が別世界のように、または人類死滅の後の死の街のように、描かれそこを舞台に推理ゲームが始まった。禅問答のような二人の会話に伏線も張られているのですが、舞台が舞台ですから不条理劇を見るような奇妙な感覚にとらわれます。果たして解答が得られるのか心配ですが、ちゃんと解答はありました。・・・・が、やはり不条理なんでしょうねぇ。(^_^;) 「月の裏側」での水郷都市「ヤナクラ」でも見られた非日常的な舞台のその怪しく危険な雰囲気がここでも見事に再現されている。廃墟も日常であったもののなれの果て。つまり日常的と非日常的とは表裏一体で怪しくも危険なのは実は日常的なものの中に有って気が付かないだけなのだ。非日常的な廃墟に日常的な人間という物体が入って来た事によって恐怖の扉が開かれたのに我々は気が付かない。 |
「ななつのこ」に続いて加納朋子「掌の中の小鳥」です。惚れっぽいボクとしては、これからも加納朋子を攻めますよ。(^_^;) ホントに「ななつのこ」に出逢えなければ加納朋子ワールドを知らずにいました。
(1)掌の中の小鳥(2)桜月夜(3)自転車泥棒(4)出来ない相談(5)エッグ・スタンドの5篇が収録。最初の3作は雑誌に掲載、後の2作は書き下ろしです。それぞれ完結された短編ですが連作となっています。詳しくは語らない方が良いと思います。特に何も先入観無く読んだ方が面白いでしょう。
それにしても、まだ2作しか読んでいないのですが2作目も期待を裏切られない作品です。「加納朋子を知らなかったの?」なんて言われるとお恥ずかしいのですが、知りませんでした。言葉にすると在り来たりになってしまいますが、「上品な語り口に嫌みのない文章、緻密な構成にミステリーに不可欠などんでん返し、存在感のある登場人物に見事にかみ合った人物描写、・・・・」とベタ褒めになってしまいます。・・・ん?在り来たりじゃないって?。そうっすねっ、そうは有りませんやね。派手な殺し無くてもスリルもサスペンスも、波止場と霧笛が無くても哀愁を、列車を追う駅の別れが無くても切ない恋心が、アリバイ工作に密室が無くても本格ミステリーへ、キスシーンやベットシーンが無くても熱烈な恋愛は、・・・・描けるんですぞ。ああ、上手い言葉で絶賛出来ないものか |
貫井徳郎の「慟哭」。警視庁キャリアの捜査一課課長は警察庁長官の娘婿であり有力代議士の落とし種でもあった。キャリア官僚という鎧を嫌い自ら捜査一課長ポストを得たのだが家庭不和で別居生活を余儀なくしている。4歳になる一人娘には人並み以上の愛情を持つもの、娘との関係は冷えていた。折しも連続幼児誘拐事件が発生し実力を示すチャンスと捜査に檄を飛ばすものの捜査は停滞する。ストーリーは警察の捜査と並行して一人の男の行動を追う。男は心に何かを抱えて新興宗教に光明を見いだそうと藻掻いている。そんな中、一つの宗教に心を動かされのめり込むのだった。捜査の進行に合わすかのように男は教団内の地位が上がり教団の秘密の儀式に参列できるようになる。そして、その儀式から男は望むべく道を見い出し暗黒の世界へ足を踏み入れるのだった。幼児誘拐殺人事件の犯人は?捜査と男の線は結ばれるのだろうか?
・・・と、犯人側(一口に犯人と言い切れませんが)と捜査側の状況を並行して進める手法は特に珍しいものではなく、むしろ在り来たりとも言える手法ですね。しかしながら、時間経過を考えると事件と合致しているのか疑問に思えてくるのです。いや、読めば読む程合わないのです。しかし、犯人に違いない状況は続々と出てきます。硬直した捜査を見れば、果たして犯人へたどり着けるとは思えないような進展。・・・しかし、しかしです。見事に最後に収まるのだからすごい。異論が出てきそうなラストながら新しいミステリーを見る事が出来ると思います。犯罪の中でも一番凄惨な幼児誘拐事件に憤りを覚えない人はいないでしょう。どんな理由を持ってきても正当化する事は出来るはずもなく救いようのない暗澹たる気持にされられます。まさに慟哭。憎しみからは新たな憎しみを生むだけなのです。 |
恩田陸「六番目の小夜子」。地方都市の進学高の高校に津村小夜子が転校してきた。その高校では「サヨコ」という儀式というか言い伝えが古くから生徒達の間で引き継がれてきていた。普通は毎年卒業時に引き継ぐだけで良いのだが三年ごとにあるイベントとをしなくてはならないようになっている。今年はそれの六番目の年にあたるのだ。「サヨコ」の意味するところは何か? 津村小夜子は「サヨコ」なのか? 学校は不審な空気で徐々に包まれていくのだ。
・・・と、あらすじを聞いただけでも何かありそうなコワイ雰囲気でしょ。学校ってこんな事がまかり通っても不思議じゃない所ですものね。「サヨコ」の引き継がれるものや、引き継ぐルールなどはお読み下さい。二番目のサヨコは自動車事故で死んだそうで、その小さな名前を刻んだ石碑が校舎の隅にあるのですが、この石碑の裏に書かれた名前を読みとるとそこには「津村小夜子」と刻まれているのです。・・・・コワイでしょ。花宮雅子と唐沢由起夫、そして関根秋の三人は何かを隠していそうな津村小夜子と得体の知れない怖さを感じつつ仲良くグループとして付き合い始めます。そんな中、関根秋は「サヨコ」の謎を調べ始めるのだ。
学校の怪談などもあるように、古くから言い伝えなどがある学校は少なくないですね。教職者と生徒という、有る意味善意の人が集う場所であるはずなのに。また、先生を除けば大人になっていない青少年ばかりですから現実社会で起きるような凄惨な事件も起きるはずのない所です。そんな所に怨念のような話が伝わるのも不思議な事です。まあ、論理的に捉えるより、超常現象に一番興味を示す世代でもあるから不思議な出来事を当たり前の感覚で捉えているため流布しやすいのかもしれません。
しかし、現在では引き継がれる話以上に学校内で凄惨な事件が起きたりしています。童心の残虐性は知識や躾が行き届かない、またはそれらが施されている途中ですから仕方ない部分がありますが、高学年に起きる多様な形態のイジメなどは幼児性が抜けていないと言う事なのか、または家庭に置いても学校でも改善されないまま来てしまった証なのか、人間性が全く見られない殺伐とした状況がそこからうかがえます。引き継がれる学校の怪談など鼻で笑われる現実の状況こそ怪談なのでしょうか。あと数十年後はどんな形の言い伝えが学校に残されるのでしょう? |
加納朋子「ななつのこ」です。第3回鮎川哲也賞受賞作なんですね。ミステリーで言えば安楽椅子探偵の部類になるのでしょうか。・・・「ミステリーで言えば」と敢えて書いたのはジャンル分けする必要があるのかと、いつもの事ながら改めて思える作品です。しかし、日常的に身の回りで起こりうる謎解きなのですが、それは主人公が日常的、言い換えれば普通の家庭で普通に成長してきた、ちょっと好奇心旺盛で臆病で恥ずかしがり屋のごく普通の女子大生の目を通して描かれた世界だからで、謎はどんな世界でもミステリアスですから殺人事件などは無くとも立派なミステリーには違い有りません。視点がそれですから、詩的に気取って気分を損なうような文章などありませんが、ストーリーにピッタリ合った思わず感嘆してしまう言い回しなどに、まさに小説としての完成度の高さを見る事が出来ます。見る事が出来ると言えば、実際見てきたように、体験してきたように描写されるストーリーの展開が素晴らしいのと、創作とは思えないような登場人物の存在感を感じます。
19歳の入江駒子は短大に通っています。本屋で「ななつのこ」を買い感動して作者へファンレターを出そうと決心します。そのファンレターに今、駒子の廻りで起きている不思議な事件を併せて書いてしまいますが、作者からの返事に謎を推理した解答が書かれていました。それから、何かある度に駒子は作者へ手紙を書くようになります。そして、7つの謎を解き明かした後に大きな謎が・・・。感動の解答は?
「ななつのこ」は本作品の題名でありますが、作品中に主人公が買った本も「ななつのこ」であります。この本も謎解き本なのですが、その小説内小説とも言うべき本の内容が語られ、それに準じた事件が起きてそれを解くという2重構造になっています。凝ってますね。しかし、それはそれで大きな伏線にもなっている優れものなのですよ、この本は。
今の世の中、我先にと主張する事に明け暮れている輩ばかりが多くて閉口しますね。躾のされていない幼稚園児と過保護の親たち、我が儘だけの小学生と学歴偏重の親たち、規則やルールを無視して平気な中学生と叱れない親たち、やる事は大人の高校生と諦めた親たち、遊び呆けている無学の大学生ととりあえず卒業だけが願いの親たち、怠け者のくせに人のせいにする暴走族と取り締まれない警察、遊ぶ金欲しさの売春と買うのが遊びの買春、利益誘導の有権者と理念のない政治家、・・・ふぅ、こりゃキリがない・・・と、まあ下から上まで、小から大まで、左から右まで、様々な人が様々な立場で様々な方法を使い主張する事に明け暮れている。主張ばかりが大手を振って歩き、真面目に、いや普通に生きて行く事が難しい。
爆音を轟かせなくても、言葉にしなくても、他人を振り返らせ心に訴える方法は幾らでもあるのですね。タンポポの色を白く塗ったって良いじゃないか。・・・いや、良いじゃないかじゃ無いぞ、白いタンポポだって有るのだ。はやてが飛び回った村だって駒ちゃんの街だって、ぼくらのすぐ側に有るじゃないですか。 |
今、売れているらしいですね。「天国の本屋」松久淳+田中渉です。就職活動は全て失敗だった。意気消沈してコンビニで週刊誌を眺めていた「さとし」の側にアロハシャツを着た得体の知れない老人が寄って声を掛けてきた。無視してその場を離れようとするさとしは腕をつかまれ、気を失ってしまう。・・・さとしが目が覚めたところは天国の本屋の倉庫だった。ここでアルバイトを命ぜられたさとしは不本意ながらも働き始めるのだった。本屋には他に二人の店員とユイという女の子のレジ係が居た。さとしは徐々に本屋が気に入り始めると同時にユイに恋をしてしまうのだ。
天国ってこんな所だったんだ、うれしいぞ。まあ、影響がないので内緒で明かしますが、現世の寿命は100歳と決まっているらしいです。天国の様子は全く現世と同じようで、例えば現世で20歳で亡くなると天国で20歳から始められ100歳まで生きる事になります。80歳で亡くなれば後20年天国で過ごせます。つまり天寿は現世プラス天国で全うする事になるのです。その上良いのは天国では亡くなった歳のまま歳をとらずに残りの人生を過ごせます。100歳で天寿を終えると記憶を消され赤ん坊としてまた現世へ戻るそうです。現世で100歳を越えたものは無くなると直ぐに赤ん坊として戻るのです。そして、今回のように短期バイトのような形でたまに現世から連れてこられるらしい。何はともあれ、嬉しいシステムじゃありませんか。(^_^)v
しかし、なんです・・・やはり、現世で悪い事をした者は地獄なんでしょうね。まさか、同じシステムで100年を分け合っていたりするとコワイです。その上、100年経つと生まれ変われるのは人間以外のものだったりしたら・・・、おおっ、こわっ。遅くはない、やはりまっとうに生きないとね。
そうそう、現世へ戻ると天国での記憶は全て消されてしまうわけですが、恋をしてしまったさとしは現世へもどってユイと出会えるのでしょうかね?。ああ、胸が痛むな〜〜 |
「捜査線上のアリア」森村誠一。良い題名ですね。「技巧を凝らした名曲のごとく・・・」「幾重にも仕掛けられた作者の罠」「驚愕のラストページ」「本格推理の傑作」・・・・本の帯に書かれているコピーです。すごい傑作のようだ。・・・・これがって言う訳じゃないけど、本には過大表示とか過大広告の禁止ってないのでしょうかね。まあ、映画の予告編なども過大なのが多いけど。(^_^;) 過大広告には「金返せ」って言える権利でも有ればいいのだけど、そうはいかないのでしょうね。受け取り方次第ですから、そのように受け取った人がいれば良いわけですものね。しかし、出版社が自ら傑作と言い切るなんて、その自信の大きさには驚きます。
しがない銀行マンが応募した小説が入選し一躍作家に。一躍、寵児になるものの、もてはやされただけで終わってしまい、今じゃ出版社に原稿を持ち込んで相手にされない始末。出版社の解答待ちでビジネスホテルに宿泊し殺人事件に遭遇するのだ。一度は犯人と嫌疑を掛けられるものの容疑不十分で釈放される。被害者の身元を調べると宝石強盗事件が浮かぶ。そして第二の殺人事件が・・・・。新容疑者には堅固なアリバイが。果たしてアリバイは崩せるのだろうか・・・・。
・・・・と、まあこんな調子で途中は話が変わったのじゃないかと思わせるような展開があったりで右往左往させられました。何だかおかしな箇所があったり、同じ話し方での会話があったり、なんだこりゃと驚いていたら、作中小説かいな。おいおい (^_^;) ・・・・確かに幾重にも仕掛けられた罠がありましたよ。でも、これって誰が仕掛けたの?。文中小説家? M氏? いやいや、まだまだ終わりじゃないぞ。最後の1ぺージまで読まないとね。 |
赤川次郎の短編集「拒否する教室」です。(1)拒否する教室(2)閃光(3)魅せられて(4)千一夜の4篇が収録されています。最近ではこの手の本はホラーと色分けされているようですね。ぼくはホラーというのがよく分からないのですが、このくらいなら安心して読めるので助かります。あの「13日の金曜日」みたいなのを想像しているものですから大概は敬遠していますので。(^_^;) ホラーって現実社会での非日常的行為、非人間的行為という普通の人が普通の生活の場で起こす残虐な行為、出来事・・・・そんな感じでしょうか?。また、それらに超常現象とか超能力のような非現実的要素が組み合わさったものもホラーと呼んでいますね。SFかなぁと思ったりもしますが、どうなのでしょうか。まあ、定義などどうでも良い事なのでどうでも良いわけですが、ホラーの3文字が帯などに書かれてあるのを見ると敬遠していますので、もしかしたら宝の山を見逃しているのではと心配になったりします。また、ホラーの三文字が無くともとんでもないくらいに恐かった事もありますね。とりあえず、ボクとしては絵的にコワイもの・・・・夢を見てしまうようなものだけは避けたい思っています。それ以外は出来るだけ挑戦したいので、何とか上手い区分けの仕方で教えた欲しいです。(^_^;) |
「月の裏側」恩田陸。何と言って良いのやら・・・。恩田陸を初めて出会ったのが球形の季節、久しぶりに出会えた二重丸と次の出会いを楽しみにして来ましたが、やっと再会できたのが「月の裏側」でした。思ったとおり、いやそれ以上に楽しませていただきました。桐野夏生、宮部みゆき、との出会いにそっくりです。「ビビッと来た」ってヤツですね。(^_^)v
元大学教授三隅協一郎の誘いで水郷の町「やなくら」へ教え子の塚崎はやって来た。協一郎から最近この町で突然失踪するものの数週間後に何事もなく戻ってきている事件が数件起きた事を聞かされる。その間の記憶は無いらしい。協一郎と懇意の新聞記者高安を紹介され、3人で謎を推理し始める。失踪者の共通点は町を縦横に走るカッパ伝説がある堀で、失踪者は掘り割りに居住していた。そんな時に協一郎の一人娘であり、塚崎の学生時代の後輩にもあたり、京都の料理屋へ嫁いでいた藍子が帰省する。そして、藍子から協一郎の兄夫婦も昔失踪して戻ってきた経歴を持ち、藍子は戻ってきたのは別人だと聞かされる。誘拐され戻された時には元の人間じゃない?何がこの町で起きているのか?誰が、何故?
いつも水を蓄え静かな流れを作りながら町を縦横に走る水路は舟での観光や生活道路の役目も持っている。一見のどかそうな水路に何か秘密が隠されていそうであり、ひきりなしに降る雨と相まって水が得体の知れない不気味さを蓄え始めます。刻々と調べが進むにつれ、推理が進むにつれ、浮かび上がってくるものは正体不明の見えない力、人間が対抗できないような大きな力。雨が町を包み込むように降り注ぎ町を飲み込もうとし始めるのだ。・・・と、徐々に見えない恐怖を感じるの同時にそれを検証する会話も十分コワイです。月の裏側は果たしてぼくらが想像しているようなものなのか?。当たり前に存在しなくてはならないものが果たして当たり前に存在しているのか?。いや、見えているものさえ、その存在は確かなものなのか? ぼくらの意志は本当に自分の意志なのか?・・・こっちの方が数倍もコワイかも知れません。 |
重厚なミステリー、「目撃」深谷忠記です。記憶にある目撃した光景が事実か否か?。目撃署証人の不確かさを、さまざまな文献などからも検証して無意識の記憶の修正の可能性がかなりの確率で起こりうると言われる事実を掲げて冤罪事件の真相解明が始まります。
酒乱の夫が公園で毒入りビールで殺害される。看護婦の妻はその時間、渋谷で見ず知らずの男とホテルに居たと証言する。しかし、公園で二人の目撃者が妻を見たと証言し、殺害に使われた薬品が勤務する病院内から盗まれている事が判明したのだ。夫には3千万の保険金が掛けられ、自白もするが、のちに強要されたと訴えては見たが一審で有罪判決が下されが、担当の女性弁護士はすぐさま控訴をする。
作家の曽我は父親を母親が殺害し獄中自殺してしまい、その母親が父親を殺害する場面を目撃したと警察に証言した過去を持っている。そんな曽我に夫殺しで控訴審を迎える獄中の被告から無実を訴える手紙が届く。連絡を取ってみると担当の弁護士は大学時代のサークル仲間だったことがわかる。疑心案気ながらも事件を調べ直して行く曽我は自分の過去の父親殺しに不審を感じ始めるのだった。過去と現在の2つの夫殺しは交差しながら静かに真相へと向かう。
実はボクはある事件の証人になった事があるのです。それで警視総監賞ももらいました。(^_^)v 事件を目撃したボクは現場に到着したパトカーに見た事を告げると翌日すぐに詳しく尋問されました。犯人は二人でしたが一人は覚えていますがもう一人は記憶が定かでなかったのです。警察は駅に張り込みを開始して、それらしい人が来たらボクはさり気なく担当の刑事に伝え刑事から無線で隠れている刑事に知らせ逮捕するという簡単に言えばそんな段取りがなされました。運良く開始日の日に現れ、ぼくは段取り取り行動して犯人は逮捕されました。ボクという証人の存在を知らしめないために、ボクの見えないところで取り囲むとうな算段はされていました。
後に自供したとの事で事件は終わったと思っていたら検察署から呼び出されて面通しを頼まれました。取調室のマジックミラーから確認してくれと言う事でした。記憶が薄れている旨を告げると自供もしてるから間違いないと言われました。時間まで待っていると一人の年取った男が入って来ました。何のようで居るのかと聞かれ面通しと答えると、自分は鑑識課の人間だと言われました。話しやすそうな人だったので「一人はたぶん分かると思うけどもう一人は記憶が定かでない、でも自供しているから間違いないと言われている」と不安の胸の内を伝えると、その鑑識課員は「人にどう言われようが自分の思っている事をいえば良いのだ」と言われて気持が楽になりました。そうして、自分の見たままの事を証言する事が出来ました。もしかして裁判に出頭する事になるかも知れないと言われましたが、それはありませんでした。
誘導尋問などと言う気はありませんが、そんな感じを持った事は間違いありませんでした。自供しているのだから見たと言っても同じじゃないかという気持もあるのです。時間をとられて正直なところ面倒くさいですからね。でも、でもです、記憶が確かでなかったものは、やはり確かじゃないと言うしかないのです。こんな証言にも勇気はいるのです。 |
東野圭吾「虹を操る少年」です。夜中の2時に発せられる光に少年少女が引き寄せられて来た。そこには一人に少年が「光による音楽」を演奏している。少年は白河光瑠。色に敏感だった幼児が今ではパソコンとシンセサイザーを駆使して光の演奏を始めたのだ。何故に光が少年達を虜にするのか?光に秘められた秘密を巡り闇の組織が暗躍を始めるのだった。
少年ジャンプに連載されている「ジョジョの奇妙な冒険」は面白いですね。この漫画の斬新というかすごいというか、今まだ誰も考えつかなかった、一番の売り物は「超能力の映像化」なんです。物を動かしたり、消えさせたり、幻影を見せたり、金縛りに合わせたり、・・・と、登場人物は各種(この能力の豊富さもすごい)超能力をスタンドと呼んでいまして、能力者同士にはその能力を使用した時には相手のスタンドとして映像で見えるのです。他人には向き合っている二人にしか見えなくてもスタンドが死闘を繰り広げていたりします。このスタンドの着想は「未知との遭遇」で塗り替えられたUFOの母船の概念に匹敵するじゃないだろうか。・・・で、果たして超能力とは人間の進化すべき方向にあるのか?と問うのですが、ホントは問題は自分たちと少しでも違う者を受け入れないという、現在抱えている虐めを始めとする諸問題の根元を問うているのです。人はそれぞれ能力を始め身体的特徴など違っていて当たり前、それを認め尊重して行く事こそ教育の場でも求められるべきなのに、みんな一緒こそ平等と大量生産の製品のような人間を社会に排出させた結果、その汚染が広まり社会も同じ物差しを使うようになってしまったのです。人種差別、男女差別、宗教差別、などなど国レベルでも地域社会レベルでも異質なものの排除は無くなりそうもないのが現実ですね。未来はあるのでしょうか?。
恐れず立ち上がった時、白河光瑠少年が奏でたあの目映い光を見る事が出来るのですね。 |
第42回江戸川乱歩賞受賞作「左手に告げるなかれ」渡辺容子です。女性保安士(ガードウーマン)八木薔子はいつものように派遣されているスーパーの万引き取り締まりをしていたところ、刑事の訪問を受けアリバイを質される。薔子のかっての不倫相手の妻が殺害されたのだった。被害者は「みぎ手」と読めるダイイングメッセージを残していた。通勤途中の薔子は確たるアリバイも無く、その上右手に怪我をしていた薔子は疑惑を晴らそうと事件を探り始めるのだ。
万引き、それの取り締まりの実態が克明に描かれていてますが、こういうのも主人公の造形に大きく影響しますね。その勤務態度から人物像がより鮮明に浮かび上がって来るようです。知識としても面白いです。不倫で職も失い、慰謝料も取られた主人公ですが割とあっけらかんと逞しく生きている女性なので、ボクなどはどうしてもイメージが掴めなくて困ったのですが、そんな女性じゃなくては殺人事件へ首を突っ込む事もないだろうし、事件を追う主人公を見れば、そのあっけらかんとした態度も頷けるので、まあ整合性は取れているわけです。軽妙な台詞もそういう証なのでしょう。事件が複雑に、また凶悪になっていく程に引き込まれて行きます。
多くは語れませんが、ぼくは初めてじゃないかな、こんな犯人の意外性の出し方は。禁じ手じゃないと思うけど実際の所、どうなのでしょうね。伏線で補えれば、というか伏線だけでも十分に想定できるようになっていないとまずい気がしますけど。 |
吉村達也「卒業」。虐めにあい続けて、卒業式の日に自殺を決心して伊豆の山中へ。首を吊ろうとした時、老人と少女が現れて20年待てと・・・。自殺を思い止まった神保はその後、大学、就職、結婚をして娘を一人授かり幸せに暮らしていた。そして20年が経った時、何かが動き出してきた。
虐めの復讐劇かと思いきや、どうも様子がおかしい。思考プログラムだとか絶対意識だとか、哲学的であるようだがどうも違う。記憶を遺伝させるとか、ミトコンドリアなのかしらん。(^_^;) ホントはコワイお話なのでしょうけど、絶対意識の伝承つ〜のを考えたいたら醒めてしまいました。理由は、いや理屈か、まあ、何でも良いけど、どんな説明でも説明が付くのはあまり怖くないのだ。説明が付かないからコワイのである。または、日常的というか当たり前みたいな解釈もコワイ。
虐めの怨念がよくテーマにされる事が多いのは、それだけ心に重い陰を落としているのでしょう。幸いにもボクの時代には、「・・らしきもの」はあったけど虐めとは根本的に違っていました。まだ「正義の味方」はかっこ良かったし「青春」は涙と汗だけで十分満足できましたから。ストレスと欲求の方向が違っていましたね。解決する全ての手段は私たちの手の中にある。 |
|