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----------------------------読 後 放 談 (8)------------------------------- |
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本を閉じてフーッとため息。最近、こんな感じの読後感を味わったような・・・そうそう「イニシエーション・ラブ」だっけ。あれも恋愛小説なのかミステリーなのか、読み手次第の分類って感じだったけれど、よく似ているなっと。でも、まさしくミステリーです。壮大な罠が仕掛けられたミステリーです。また「2文字」で鳥肌が立ってしまったぞ。
本書は先に刊行された「ななつのこ」、「魔法飛行」に続く3作目と言うことで、作者も「はじめの言葉」で出来るなら1作目から順番に読んでいただきたいとお願いしています。もちろん単体でも読めると断っていますが。そうなんですよね、これはストーリー的にと云う事じゃなく感動の度合いに大きく影響しているからで、本当は絶対に読んで欲しいと思っている筈です。「カーテン」の重さはポアロの足跡を見続けてきたから味わえる舞台、だからこそクリスティは最後の最後に出して来たわけで、「逃亡者」は片腕のない男を捜し続ける苦難の旅を見てきたからこそ成り立つ物語なのです。始まりと終わりの間のスペースは必要な空間なのですね。
主人公、駒子が持ち込む謎を天体好きの青年瀬尾が解くストーリーの中でそれぞれが置かれているスペースを読者に知らしめたのが本書とも言えます。本書では「スペース」と「バックスペース」と名付けられた2つのストーリーから成り立っています。「スペース」では駒子が友達に出したと言う手紙のコピーから手紙と織り込まれた謎を解くお話です。「バックスペース」は手紙に記された実写番、つまり手紙にされる前の元ストーリーです。多くは語れませんが、鮮やか過ぎる「スペース」での名推理は曲者だった。ボクはすっかり術中にはまってしまいました。だからこそ感動のラストを迎えられたわけですけど。
「スペース」は実に多くの意味で使われています。 場所としてのスペース 宇宙のスペース 空間としてのスペース 手紙の行間、などなど。しかし、ストーリーを貫いているのは、親と子、兄弟姉妹、友達、そして恋愛に置いてのそれぞれの位置とその距離を表しています。お互いを尊重し認め、良い関係を保つ為には必要な位置と間隔があるのだと問うています。その上、この位置も距離も必ずしも一定ではなく、その時の状況で変わって行くものだと。全くその通りですね。それが簡単に出来ないから悩み苦しむのです。そんな回答の1つも用意されています。
ホットドックにはソーセージじゃないけれど、本書に必要だったのは何もトリックの為に用意したわけじゃなく、テーマにこそ必要だったように、さり気なく書かれたストーリーは緻密で一分の隙もな構成されています。10年以上掛かった続編、そりゃ掛かりますって。オマケにもう一つスペース。運転席に後ろ、社員寮の後ろにもスペースが、文字通りバックスペースですけど。ラスト 「正しい場所にいるか」と自問、「ここより他に居場所はない」と自答して締めくくられます。期待を裏切らない「スペース」に惚れ直しましたね。ホントは加納朋子にと言いたいところですが、作家と読者のスペースを侵してしまうので我慢しておきます。 |
山梨県、東京との県境奥多摩山中で殺人事件が目撃されるところから物語は始まります。一見、無防備な殺人事件ですが、実は周到に計画された殺人事件でした。時は1ヶ月半前に遡り・・・。とまぁ、これくらいしか粗筋を書けないくらい、ある意味で密度の濃いストーリーとも言えます。賛否両論有ったようですが、本書は横溝正史ミステリー大賞優秀賞作品です。
たぶんですが、ミステリーを書かれる時にトリックは出来上がっていても、頭を悩ますのは動機じゃないでしょうか。簡単に浮かぶのが財産(金)、痴情(女)、名誉(権力)で、その裏返しの復習。出尽くしちゃってますものね。だから味付けをするわけですが、これが問題だ。途中犯人がでバレちゃまずいし、どんでん返しも必要だ、となると動機を持つ容疑者を有る程度の数を用意しないとまずくなってしまう。「殺したい人いる?」と聞けば、この世の中だから賛同者もいない訳じゃないけれど、実のところ多くは「死んでしまえ」程度のレベルじゃないでしょうか。「殺したい」となると相当に個人的な話になって何人も居るはどうでしょうか。・・・となるから、一人じゃ動機からすぐにバレてしまうので本書の「大きいように見せかけた小さな罠」もあるのです。
動機が現実的で必然性があるほど加害者に肩入れをしてしまいます。捕まるなよ・・・みたいな。別な言い方をすればストーリーに感情移入しやすいって事でしょうか。「みんな誰かを殺したい」から想像出来るとおり複数の殺したい(動機)が出てくるのですが、ストーリーはつながっているものの、大きく分けると前半と後半で別なものになってしまい、肩入れを替えなくてはならなくなりました。途中の解決はずるい。この気持の切り替えは慌ててしまいます。「小さいように見せかけた大きな罠」は大好きなラストですが、時間差を無くし伴走してゴールを迎えなくっちゃ。 |
哀しくて、切なくて、辛い別れにも、凍るような冷気が鼻孔を通り抜けて行くような・・・清々しさを感じる別れがここにはあった。一般的な見方をすれば、恋愛のゴールって結婚って言うことになるのだろうけど、どうも恋愛の完結って別離じゃなかろうかと思ったりも。まあ、寿命があるので別離は避けられない運命なんですけどね。
「パラレル」は離婚した主人公と元妻、主人公の親友とそれを取り巻く女性達の人間模様を現在と過去を行ったり来たりしながら、軽妙で味わい有る会話で綴るラブストーリーです。失職から妻の不倫、別居から離婚と移り変わる様をエピソードを通してセピア色で描かれるも現実的であります。それでいながら、主人公の年齢から背格好さえあやふやで、人物造形は殆どが会話を通してしか書き込まれず、読者が頭の中で作り上げなければならないので非現実的とも言えたりします。でも、それはそれで、本書にしっくり来るのですから不思議、むしろ書き込んだりしたら台無しになりそうです。全体がそんなトーン。
別居中に元妻は主人公の部屋を訪れたり、メールを寄越したりします。主人公は原因を作ったのは妻の方じゃないかと、拒否はしないけれど素っ気ない態度。寄りを戻したい雰囲気を感じるも自分から手を差し伸べられません。「恋愛は有利不利」・・・有利な立場に立った方が勝ち、追うより追われろ、これこそ恋愛術と信じている主人公です。離婚の原因を作ったのは元妻、クラブで知り合った娘と関係を持つが後に生理の有無で一喜一憂、総じて自分が不利になろうが損をしようが、事の原因を作る側には絶対に居たくないと言う「責任からの逃避」。これらは、ある意味自分にも他人も誠実でありたいという建前でして、同じような事を思っていた方も多いはずです。そして、これらから逃れられない主人公は離婚へ。
離婚話を聞いた親友は「離婚はするな」と諭します。そして、「 俺なら絶対離婚しない、自分も二股を掛けるとか何かひどいことをして、イーブンに持ち込んであげるな」と言います。有利なら不利な立場に、責任は自分も同等に、・・・・二股も三股も掛けていそうな親友の言葉。愛するなら何を成すべきか?恋愛の勝利者って?
想像任せの人物像だからこそ、自分の一番しっくり出来る像を投影できる。生活の舞台は現実的であり、荒唐無稽の行動が有るわけじゃない。歯の浮くような台詞もないし、興ざめてしまうような枯れ葉散る銀杏並木の別れのシーンもない。だけど、リアルに場面はフェイドアウトをしてはまた開き、清々しいラストを迎えるのです。どんな別れをするか、これで恋愛の価値が決まります。確かにストーリーはパラレルだけどみんなの心は間違いなくクロスしていました。 |
「核シェルター」、あまり聞かなくなった言葉ですね。ソ連崩壊、東西冷戦が終結され、核の脅威も(無くなったわけじゃないのに)取り沙汰されることが少なくなったようです。小説でも映画などでも対テロリストとか麻薬組織とかで、スパイ合戦物も急激に減ったような気がします。我が国では北朝鮮問題が目の前にあるにせよ、核戦争・・・世界規模の核戦争はあまり現実的じゃないようです。
資産家で異色のミステリー作家が所持している核シェルターに見学者が集まった。主人の案内で見学が始まったが、シェルターまで迷路になっている異常な構造だった。シェルター入り口付近にさしかかった時、突然天空を強烈な閃光が襲い、主人の掛け声で一斉にシェルター逃げ込んだ。・・・外界から遮断されたシェルターで初対面の6人に連続密室殺人が襲う。
シェルター自体が密室でありながら、シェルター内の部屋で連続密室殺人事件が起こるわけです。密室内密室か。もちろん本格ミステリーを踏襲された本物。敢えて一言前提を。シェルター内の装置より外気が放射能に汚染されている事がわかりますが、これに疑問は持つ必要はないよう。規模は不明でも放射能反応が感知される程の核ミサイル攻撃を受けたか、発電所の事故か、何かがあったわけで故に外には出られない。シェルターから出られる外界の状況があると、留まる必然性が無くなり、密室殺人の前にシェルター脱出の方が重要になってしまいますものね。ホントは放射能汚染よりその方がリアルではありますけど。
シェルターが作られた土地は、その昔に異常犯罪者が誘拐してきた人々を棺桶に閉じこめ生きたまま埋めた犯罪現場だったそうです。犯人は埋めた棺桶から空気管を外まで出し、朽ち果てる様子を観察していたらしい。警察が掘り起こしたら7つの棺桶が埋められており6つまでは被害者が発見されたが、残りの1つは空だった
とか。・・・この話はコワイ。こんな逸話も織り込まれています。果たして過去の事件の怨念なのか? 事の成り行きは創元社より依頼され著作のため取材に来て巻き込まれた作家の三津田が持ってきたノートパソコンに記録していきます。初対面の上繋がりの見えない人々には動機すら見えてこないわけですが、密室殺人は1件、また1件と続いて行くのです。
そもそもが核ミサイル攻撃を受けた・・・と示唆されているわけですが、この辺で現実感が持てなく先に進みにくくなってしまいましたが、織り込まれた逸話もあって、裏の裏読みで何とか持ちこたえました。随所にホラー映画などの蘊蓄有る話が散りばめられています。その方面のファンにはたまらないのじゃないかな。最後の1歩手前までは、かなり引き込まれたのですが、ラストはたぶん一番評価の別れるところになるでしょうね。文中、トワイライト・ゾーンの話が出てきましたが、まさにトワイライト・ゾーン向けの原作になりそうです。ボクはミステリーゾーン
、アメージングストーリー共々大好きですけどね。 |
自分勝手で独善的でちゃらんぽらんな大学生が家裁調査官になった。その学生時代や調査官時代のエピソードを友達や同僚の目を通して語られた短編集だ。・・・と、簡単に言ってしまえばこうなりますが、そうは問屋が卸さないのが「チルドレン」。とんでもない主人公はその性格ゆえに問題を起こし、そして解決もしていきます。フウテンの寅さんみたいだ。雰囲気は加納朋子ワールド。切り口は重松清風。こりゃあ、爽快になるわけだ。全5篇が収録、「バンク」と「レトリーバー」が性格補強編、「チルドレン」と「チルドレン2」が問題解決編、「イン」が過去精算編となっとります。
「自分勝手で独善的でちゃらんぽらん」ですが、底を流れている優しさは奥が深い。何気ない一言が胸を打ったりします。ビートルズの「アイ・ソウ・ハー・スタンデイング・ゼア(ボクも歌ったりしてます、この曲 (^_^;) )」なんてやってしまうバンドもやっていたり、喧嘩している高校生の間に平然と入って行けたりもします。痛快だ!。「俺は生まれてからこの方,ダサかったことなんて、一度もないんだよ」と平然と言い切たりも。たぶん誰もが、この人なりが好きになる筈です。憧れるかも。・・・こんな人がいれば世の中、もっと良くなるなって。
「アイ・ソウ・ハー・スタンデイング・ゼア」でひとりの少年が救われます。千の言葉より1つの行動が象徴的に表された感動的な場面です。でも、このセッティングは意識してなされたものです。何も先に挙げた好ましい性格だから成されたことでもなく(確かに性格の延長線上にあるわけですが)他の誰だって意識すれば出来ない訳じゃない事だと思うのです。意識せずに人柄だけで闊歩できた学生時代でも、家庭調査官をまっとうしようとするならば、それなりの意識が必要なんですね。
・・・爽快感を味わえば味わう程に、現実にはありえないと心の何処かに冷めた部分感じます。善意の行動が簡単に報われるなんて薄っぺら過ぎはしないかと。それでも晴れ晴れした読後感が味わえるのは、文中で家庭問題も少年問題も駄目なものは駄目なんだと言い切り、だけど出来る事は逃げずに果敢に挑戦していくことは恐れないという姿勢を見るからほかないのでは。奇跡は起こしていないのだ。無意識から意識してとは、主人公が成長して行く過程でもあり、言葉を換えればチルドレンから大人へと言うことでしょうか。フウテンの寅さんだって、ちゃんと考えて行動して居るんだよね。 |
「レイニー・レイニー・ブルー」は安楽椅子探偵物で表題を含めて7篇収録されている短編集。安楽椅子物ではあるけど、主人公の安楽椅子(車椅子)は電動ユニットが組み込まれた特注スポーツタイプである上、特別仕様の自動車も運転する「ちょっと行動的な安楽椅子探偵物」。医療事故のため半身不随となった通称「車椅子の熊ん蜂」こと熊谷斗志八が、新人介護福祉士の鹿野真理江をワトソン役にし、身障者問題を織り交ぜながら身の回りで起きる難事件を解決します。
19歳の女性患者と、障害者の国際交流会で出会い文通を続けてきた、英国の66歳の資産家が来日した。ホテルにチェックインしたものの、部屋から車椅子を残したまま消えてしまった。付き添い無しには行動できない筈の英国人に何が有ったのか・・・書き下ろし「レイニー・レイニー・ブルー」の謎はこうして始まりました。勿論、事件の解決こそがメインですが、ここでは19歳の女性患者の性体験希望という問題が絡められています。恋愛感情など無くても行為自体を体験したいと希望に、ワトソン役の真理恵は「・・・とどめのない気持や心に動かされて生まれるはずの一番深い経験・・・・」と諭し、恋人だってできる可能性はまだまだ有るのだからと慎重に考えて欲しいと言う。しかし、「・・・切ないくらい知ってみたい体験・・・時間とチャンスはないのだから」と考え抜いた結果だからと返される。「閨房での交渉にも介護者の手が不可欠」という問題はまさに現実。・・・そんな身障者問題が随所に盛り込まれていますが、本格的推理小説を妨げるものではありませんのでご心配なく。
「ミス・マープル」や「隅の老人」でお馴染みの安楽椅子探偵物は、探偵に足枷をはめて行動力を奪って自身で見聞きしたものだけで推理させる所に面白さがあるのですね。このハンデに必然性を与えリアリティ溢れる世界を作り上げたのが本書とも言えます。当たり前と気にも留めない事から見落としたものを探し出し推理する醍醐味はまさに本格派、十分堪能できるでしょう。 |
「何をしてもいい、 どんな手を使ってもいい、一番強い男になりなさい。そのために、私にできるのはこのくらい」と孤児院の前で母親に捨てられた。一人の男の世界最強を目指したドラマの幕が開いた瞬間だ。・・・時は過ぎ、後楽園のゴミ捨て場で死体が発見される。捜査の結果、新星のように登場したカタナと呼ばれる覆面レスラーと判明。その捜査中、またラブホテルで傍らに遺書とカタナのマスクと死体が発見される。2つの死体はどのように結びつくのか、捜査はカタナが所属する新東京革命プロレスへ向けられた・・・。
時代はプロレス、異種間格闘技、K1やプライドと格闘技の移り変わる狭間、プロレス界に危機感を感じ新しい格闘技を模索し始める新東京革命プロレスを舞台に世界最強のを目指す男たちの物語だ。「最強とは」が大きなテーマとしてストーリーを最後まで貫いている。支えているのはプロレス、格闘技界。大事なのがガチンコ(真剣勝負)とフェイク(八百長)。・・・ガチンコって真剣勝負の事だったのか。(^_^;)
ショッキングなプロローグから期待を持たされるも、2つの殺人事件でその期待が萎みそうになるのだが、「どこか、おかしいぞ?」というミステリーファンのシグナルが押し戻してくれます。時代は変わって、再び殺人事件に遭遇するのですが、これがその都度解決されてしまいます。連作短編じゃあるまいし。そっか、これはそんな構成の本なんだ・・・と納得させられたら、思う壺。フェイクには勝ったかもしれませんが、ガチンコには負けた事になります。
裏方に、所轄の格闘技好きの刑事がいます。刑事の言葉を借りてプロレス界の内幕や格闘技の現状を説明させたりしています。格闘技好きだからこそ最後の幕も引けるわけですが。簡単に読めそうで読めない伏線ですが、最後には納得できるはず。途中、キツイ一発でKOを食らう章も有ったりで、重量感もあり濃厚ながら意外とさっぱりした本格味の格闘技ミステリー、心地よい読後感が味わえること間違いなしです。
男の目指したものは何だったのだろうか。母親が残した「一番つよい男」とは?その言葉を託された子の最強とは?、リングの最強とは?、正解はあったのだろうか。格闘技であるが故の動機に回答が見いだせそう。まさに
この背景があるからこそプライドなのだ。「誰もわたしを倒せない」、これは誰の台詞?。 |
珍しいショートショート・ミステリーです。なんと32編も収録されています。ヒノキ化粧品のPR誌に1990年12月号から1994年4月号まで連載されていました。なるほど、それでショートショートか。しかし、ホントにショートに仕上げられていて、通勤とか旅行など手頃な暇つぶしにもってこいです。
さて、「女が殺意を抱くとき」ってどんな時?、興味津々。女性ならではの殺意の瞬間があるとすれば、それは動機の問題?、いや女性特有となれば嫉妬とか、恨みの持続性とか心の問題なのだろうか?・・・と、読者の立場からすれば一番気になるところ。ところがショートショートなものだから、そこまでは窺い知る事は出来ないのです。残念ながらストーリーは殺意を抱く経緯に重点は置かれず、殺人事件が起き、容疑者が絞られ(容疑者が逮捕される場合もあり)ますが、関係者がそれをちょっとした蘊蓄(うんちく)話から覆して真犯人を暴く、このひとつのパターンで展開されています。動機は恋愛問題がほとんどですが、あまり動機に意味はないようです。むしろ、真犯人を暴く「ほんの小さなきっかけ」こそ、ストーリーの根幹をなしています。これはこれで面白いと思うのですが、この「ほんの小さなきっかけ」では犯人逮捕は本の上でも無理がありそうです。通常の使い方ですと、伏線なり、犯人とおぼしき人物に捜査を向ける程度の事だろうと思います。ホームズ時代ならOKかも知れませんが。当初、題名から察する内容とかけ離れているようで少し戸惑いました。
まあ、元々がPR誌連載のショートショートですから、嫌悪感を与えるようなミステリーのダークサイドなどは書かれているわけないのです。また、ショートショート故の制約がありますから、掘り下げた書き込みは出来にくく、全体に表層だけの描写は致し方ないところ。しかし、題名から察する内容とかけ離れているようでは、戸惑いを与えるだけです。だからこそ、なのです。軽いテンポでサラッと読め、蘊蓄もあるお手軽ミステリーです。もう少し内容にマッチした題名を付けてもらえると、それなりにもっと楽しめるのではないかと思うのです。 |
休日の午後、郊外の地上6階建ての大型商業施設は買い物客で賑わっていた。突如、何処からともなく火災の警報が鳴り響き、人々は出口へと殺到し始めるのだ。階段へ、エスカレーターへ、逃げまどう様が、さらにパニックを誘発し大混乱となった。しかし、死者69名、負傷者116名の大惨事を引き起こしながら、その原因は全く掴めていなかった。火災、毒ガスと言われながらも、ただ1つの痕跡すら発見されなかったのだ。
・・・と、事件は提示されるけれど、警察も探偵も出てこない。じゃあ、どうやって解決を?となりますが、被害者を含め、事件に関わった人々の状況説明だけで、それを計ろうって魂胆なんです。その上、それが本書の最大の売り物「Q&A」(質問と回答と言いたいけれど、むしろ全体を見れば会話と言った方が正解と思う)だけで、人物説明も廻りの状況も全て語って行こうってわけです。ちょっと、凄いです。この「Q&A」、焦点は必ずしも原因究明に置かれるのではなく、関わった人がどの様に関わったか説明しているだけで完結させている短編の寄せ集めみたいなものとも言えそうです。ただ実のところ、最大の問題である原因は分かりにくいです。何故かと言えば「これが原因だ」とはっきり提示されないから。
・・・そこで、登場するのが・・・。ちょうど取調室で事情聴取を見ているように、足を棒にし汗を拭き拭き聞き込みをしたように、変装をしテープレコーダーを忍ばせて、目を付けた関係者から証言を録るように、・・・たくさんの語られた「Q&A」から真相を、事件の全貌を、推理するのは警察や探偵に成り代わった読者ってわけです。言葉に出して「犯人はコイツだ」と名指しして貰わないと我慢できない読者にはちょっと辛いのですが。素晴らしい推理力を駆使して解決して下さい。もちろん原因究明だけが使命じゃありませんけど。ただし、読者の「原因はコレだ!?」と言う「Q」に対して「A」は誰が答えてくれるのかはボクも解りません。 |
4月の末の雨の日、受験を控えた高校生、守屋路行と大刀洗万智は下校途中に橋のたもともの潰れた写真館のシャッターの前で、雨宿りをしている一人の少女に出会う。少女は知人の家を訪ねたら亡くなっており途方に暮れていた。少女の名前をマーヤ、東欧から父親と来日し2ヶ月程一人でこの国を見て回るつもりだったと知る。二人は級友の旅館の娘を紹介し、そこで働きながら滞在する事になる。やがてマーヤを交えた楽しい日々が過ぎ滞在期限の2ヶ月目を迎えマーヤと別れる時が来た・・・。
時代は1991年、平成3年である。マーヤの祖国はユーゴスラビア。・・・内戦前夜の頃である。何処がミステリーかと思いきや、どうもマーヤを交えて色々なところへ出掛け、その先々で起こる小さな出来事が推理され解決するところを指すようだ。日本の文化を学ぼうとするマーヤは様々な質問をし、それに答える・・・・そんな一環の話かと思っていたら、どうも違うようでした。(^_^;) まあ、そして最後にマーヤの祖国が解体したユーゴスラビアの
どの国か今まだの会話から推理する事になるのですが・・どうもねぇ。マーヤと守屋、守屋と万智、恋の匂いは感じられるものの、最後に明かされるほど感じられませんでした。正直なところ全体がアメリカンでコクがない。かえって苦いなら苦く酸っぱいなら酸っぱい方がハッキリしますね。文中マーヤが日本で飲むコーヒーはが苦いと言いますけどね。(^_^;) |
地方の大学に入学し、一人暮らしのスタートを切るアパートに着いた日、隣人に挨拶をと隣の部屋のチャイムを鳴らした時から、運命のように物語の登場人物に加わえられてしまった。そこで出会った隣人に本屋を襲って広辞苑を盗む手伝いを頼まれてしまったのだ。何故、本屋を襲う?、何故、広辞苑を?、、、これが現在進行中の物語。時は遡り、ペットショップの女性店員とその恋人のブータン人の留学生は、店から姿が消えた柴犬の行方を捜していた時、ちょっとした事から公園でペット虐殺の犯人とおぼしき3人組の会話を聞いてしまい、追われる事になってしまう。その場は何とか逃げ切れたものの、バスの定期を落として、、、これが2年前の物語。そして、2つの物語が交差した時に舞台の幕はボブ・ディランの曲に乗って、、、、。
隣の部屋のチャイムを鳴らす。ピンポーン。いや正確には、指を押すとピーンで離すとポーン。そうそう、アパートのチャイムってこれです。こんな軽妙でユーモラスな語り口が全編に溢れていますが、進行中の謎は犯罪の形さえ見えて来ないのに深まるばかり。2年前の物語はペット虐殺からエスカレートしていきそうな気配のサスペンスがジワジワと!。時は過去ですが進行形で書かれていますので緊迫感も十分あります。ユニークな登場人物は特に深く描き込まれているわけではないけれど、会話の言葉から存在感はたっぷり。どのような言葉で会話させるのかってホント重要なんですよね。さて、これまたユニークな題名の「アヒルと鴨のコインロッカー」は、どう繋がるのかなかなか見えてきませんが、読み終えるとなるほど「これしかない」となります。睡眠時間を削っても一気に読みたくなるようなテンポの良い作品でした。 |
畠中恵「百万の手」です。この手の話、大好きです。異常に子離れの出来ない母親を持つ主人公は中学生で母子家庭だ。親友の家が火事になった。火事の現場に駆けつけ親友と出会うも、制止を振り切って親友は燃えさかる家へ両親を助けようと飛び込んだ。火の勢いは増し家は崩れ落ちた。一家3人は亡くなった。主人公の手元に残された親友の携帯電話。・・・その携帯電話が鳴り亡くなった親友が放火犯を捕まえようと携帯から呼びかけてきた。そして、犯人探しは始まったのだ。
人工授精、受精卵・・・DNA・・・・クーロン・・・と底に流れるテーマは重い。主人公を取り巻く人々、母親を筆頭に、その母親の再婚相手はホストクラブのオーナーだったり、とこれまた楽しい。所謂、青春推理小説とも言うべき洒落た会話にユーモア溢れる展開ながら連続殺人を匂わせる犯罪が重量感を感じさせる。スリルにサスペンス、息もつかせない展開、謎が謎を呼び一向に見えてこない真相、・・・引き込まれますよ。「・・・・だけども、ぼくらは生きて行く」・・・・散りばめられた作者のメッセージが嬉しい。そして、何よりラストで全てが救われ、心安らかに本を閉じる事が出来ます。・・・・・こうじゃなくちゃねっ!! |
「邪恋」藤田宜永です。う〜ん、シチュエーションは凄いですけど、ミステリーとは関係のない恋愛小説でした。ボクの思い込み違いとでも言うのでしょうか。何とか頑張って読み切りました、(^_^;) 不幸な母親との関係を持っち、医者の道を途中で外れ下肢装具士となった男は友達の妹を愛人としていた。いわくの有りそうな事故により下肢を失った美貌の人妻はお金持ち。愛人の兄の居る病院で下肢装具士は人妻と出会う。新しい獲物に興味を持つ下肢装具士。愛人が別れ話を持ち出す。女性患者の夫は医者と友人。夫の妹は愛人と友人。医師もかっては人妻に恋心をいだいていた。・・・・うわぁ〜、こんがらかりそうな関係だ。まあ、そう言うわけでボクの畑違いのジャンルなもので大それたコメントも出来ません。興味を持った方は一読を。 |
「臨場」横山秀夫。事件現場へ行き、初動捜査にあたる事を臨場と言う。・・・で、本のカバーの真ん中よりちょっと上、縦に題名の「臨場」とある「臨」と「場」の間を「KEEP OUT 立入禁止」の文字が連なる黄色のテープが巻かれています。事件現場かいな。おしゃれですね。(^_^)v ぼくらはこのテープくぐって中にはいるわけだ。現場には(1)赤い名刺(2)眼前の密室(3)鉢植えの女(4)餞(5)声(6)真夜中の調書(7)黒星(8)17年蝉・・・と7篇が収録されています。
倉石義男、52歳は「終身検死官」の異名を持つ捜査一課調査官です。倉石の下で働いた事のある部下達は、その初動捜査の眼力に敬服し自分たちを倉石学校の生徒と称し倉石を「校長」とも呼んでいます。捜査一課長や本部長など上司に対しても諂うことなく、むしろ命令さえ無視してしまう県警内の無頼漢で通っています。しかし、無頼漢は他の追従を許さない見事な眼力で見事に解いて行くのです。・・・と、まあ、この倉石捜査官の活躍を描いたのが「臨場」なのですが、短編ならではの話の積み重ねと云いましょうか、事件を解決するたびに、その人なりとか警察内部の事情とかが解ってきて別な意味でも楽しめたりします。ホームズばりで解決したり、胸に迫る情が溢れていたりと、様々な事件がまたより一層楽しめたりします。今更ですが、横山ファンならずとも十分たっぷり楽しめます。これまた大推薦の1作です。 |
藤田 宜永「はなかげ」。藤田宜永づいているボクとしては、例のごとく短期集中型読み漁っています。「はなかげ」は(1)放春花(2)ホワイト・クリスマス(3)妖精(4)クレマチスの女(5)ご馳走様でした(6)藤色の季節(7)時の流れに、以上7篇が収録されている短編集です。全てを明かすわけには行かない規制のなかで短編集の読後感を書くのは難しいですね。あらすじさえも書きにくい。
まあ、例のごとく中年・・・・・中年って幾つくらいからでしょうか?・・・・の哀しい恋愛物語とでも言いましょうか。こんな事を書くと侘びしさが漂ってきそうですが、若い青空の下でのカラッとした恋愛のようには行かなくても、後ろ髪を引かれるような黄昏時のしっとりとした恋愛です。まさに純愛と云っても良いような・・・とは褒め過ぎか。歳を重ねないと出来ない恋愛もあるって言う事でしょうね。さて、どの短編も完結はしていません。まだ続きが有るはずです。中年の次は何でしょうか?熟年? 熟年になった時、それぞれの主人公達はどのような恋愛環境に置かれているのか、見てみたい。それでも終わらないって?。そうか、棺桶に足を突っ込んだ時に振り返ったら何が見えているのか・・・・だな。 |
乾くるみ「イニシエーション・ラブ」。最後のページ、10数行で「アレッ?」。どこかおかしいぞ・・・・読んできた中にそんなシーンあったけ?。そして、そして、そして!最後の2行目です。もっとも、この2行目に目が行くのは読み終わって「なんだ、ただの恋愛小説じゃないか」と本を閉じ、帯に書いてあったキャッチコピー「今年最大の”問題作”かもしれません 是非、2度読まれる事をお勧めします」を読み直して、「どこが問題作なんだよ!」と文句を言いながら、最後のページをまた開いた時なんです。・・・そして、何気なく見た2行目のたった2文字。久々に鳥肌が立ちました。「な、な、な、んやコレっ なんや、この手法!! ミ、ミ、ステリイーやないかぁ!」と叫びましたよ、ホント。確かにキャッチコピー様がおっしゃられますように、もう一度読まないといけませんや。まったく別な話になってしまいますがな。
消極的で風采のあがらない就職を控えた大学4年生の「語り手」は、都合の悪くなった友人の身代わりに合コンへ誘われ、そこで歯科衛生士の彼女と出会う。心惹かれるモノを感じるが積極的に出られない「語り手」だが、2回目の合コンをきっかけに二人だけのデートにこぎつける。・・・どちらかと言えば、彼女の方が積極的でもあるのだが。やがて二人は恋心を抱き恋愛関係へと進んでいくのだ。「語り手は」東京に本社の大企業に内定するも彼女のために地元に支社のある企業に就職をする。しかしその実力を買われ東京本社へ転勤となる。毎週末には彼女の元へ会いに戻るのだが、同じ課の女性に愛をうち明けられ帰省も遠のいていくのだ。そんな折り、彼女の妊娠を知り結婚を決心するも彼女の反対でやがて心の行き場を失っていく。結局、中絶するのだが、ますます関係は遠のいていく。帰省したある日、彼女のアパートで会社の彼女の名前を間違って言ってしまう。・・・・それが二人の別れとなった。そして「語り手」は正式に会社の彼女と結婚を前提とした恋愛関係に入る。ラスト、彼女の両親と会い、彼女の部屋での会話で別れた彼女を思い出すのだが・・・・。
・・・・と、まあ長々とあらすじを書いてしまいました。よくある話じゃないかぁ〜ってなもんでしょ。ホント、絵に描いたような恋愛物語で、その愛が形になる過程が丁寧に書き上げられています。恨みの殺人事件があるわけじゃなし、ストーカーのような恐怖もないのであります。だけど、鳥肌が立つような、または人によっては背筋が凍るようなラストを迎える事になります。一瞬、色々な取り方が見えるので戸惑いますが、正解は1つですからスッキリしない方は再読ですね。もっとも、再読は全ての読者の義務と権利でもあります。2度目にページをくくると全然、違う物語が始まるのですから。さり気なく書かれた一冊の本がこんなに重いのは2冊分楽しめるからじゃないですよ。入っているモノが違うのだな。すごいものが詰まってますよ。帯に偽り無し、本年度の傑作でしょう!。 |
「キッドナップ」、「左腕の猫」と読んできたら、もう止まらない。藤田宜永「艶めき」です。(1)善治の恋(2)指輪(3)うどん(4)扇子の秋(5)ちぎる(6)古木の梅(7)女お支度、以上7篇が収録されています。表題の「艶めき」、良い響きですね。これが解るには10年早い。・・・・と、言うわけで若い人たちの恋愛じゃあないです。「艶」なんて今じゃどこに行ってしまったのやら。セクシープラス情愛とでも申しましょうか、歳を重ねると悪い事ばかりじゃなくて、こんな心を揺さぶるしっとりとした愛に出会えるわけです。短編なのでサラサラ読みやすくて良いのですが、1つ終わる毎に天井を見上げてため息をつきながら一服しないと次には行けないものが心を満たしてきます。読み終わって、そうか!と合点。それは「キッドナップ」では赤ん坊の時自分を誘拐した犯人に会いに行く高校生のお話でしたが、その海辺の食堂の犯人であるところの女性が主人公である高校生以上に心に残る存在感を感じたのは、もしかしてこちらがメインだったのかも。見る視点を間違えたかなと・・・合点でした。
どの話も中年の男女の恋愛物語です。文章と文章の間にある情感はある程度の歳を重ねないと見えてこないでしょうし、その歳を重ねてきた数十年は語られなくとも解るくらいの理解力がないと、まさに「艶」を感じられないでしょう。「艶」のある恋愛が出来る歳になりました。若い方、羨ましいでしょう。同年代の方、頑張りましょう! |
「幻夜」東野圭吾。阪神大震災の日は自殺した父親の葬儀の日であった。天災の日の朝、叔父を殺した
。同じく両親を亡くした女に殺害現場を見られた。・・・・未曾有の災害の日の朝、二人は出会い新しい運命が始まった。場面は東京に移り、時は経つ。人並み外れた美貌を持つ女は銀座の老舗宝石店、男は金属加工の工場で生き始めた。殺害現場を見られ、救われた男は女の野望の影の支援者となり泥沼に落ちていくのだ。
阪神大震災の混乱がストーリーの必然性とリアリティーを可能にした。ジャンルから言えばミステリーではくくれない。言うなればスリルとサスペンスに満ちあふれたエンターティメント。仕掛けられた罠も提示させられている。血に染まっていく過程も見る事が出来る。追いかける刑事の足跡も隠されていない。だだ1つ、この野望に満ちあふれた女は誰なのだ? 野望の完成を眺めながら女の正体を知りたいが為にページはめくられて行く。・・・・と、言うわけでページをめくりましたよ、一挙に。休ませない。追い立てられるようにパラパラと。おかげで寝不足だ。ベールが一枚一枚はがされて行く後半は息もつかせないぞ。ラスト前はもう窒息寸前、撃沈されるぞとラスト突入をしたら、急に息が楽になり血圧も下がってきた。ううっ、窒息したかったのにぃぃ。いけず。(^_^;) |
本書は(1)老猫の冬(2)永遠の猫(3)蛮勇の猫(4)葬式の猫(5)猫の幕引き(6)左腕の猫、の以上6篇が収録されています短編種です。主人公は中年男性で相手は妻で有ったり若い愛人であったりしますが、いずれもその関係を保っている微妙な心の動きが、直接的ではなくちょうど光と影のように見え隠れさせながら語られています。同年代、該当年代の男性は身につまされそうです。
決して品行方正ではない主人公達でありますが、真面目で自分なりの真剣な生き方をしています。 定年間近になって、妻からただ「飽きた」という理由だけで離婚を迫られ別居生活に踏み切りざるおえなかった作品や、先に亡くなってしまった妻の知らざる一面と不貞疑惑作品などなど妻との関係や歳の離れた愛人に妊娠し、子供は生むと宣言された話や同じく歳の離れた愛人関係ながら突然交通事故で相手が亡くなってしまい、自分の生活を改めて見直さざる終えなくなってしまった話や・・・どれもが心の侘びしさを強調することなく、間接的に生活を描く事で浮かび上がらせて淡々と語ります。さり気ない描写が存在感を与え短編ながら重量感を感じます。1編読む毎に次の作品を読みたくなるような期待感ともう少し余韻を感じていたいような、相反する心の動きにきっとため息を漏らす事でしょう。性別や年代によって受け取り方が変わってしまう気がします。中年男性にはお奨めですぞ。 |
ほしおさなえ「ヘビイチゴ・サナトリウム」。中高一貫教育である女子校、白鳩学園は中等部と高等部の校舎は別々であるが教師は兼任でクラブ活動なども合同だった。美術部所属の高校3年生が半年をあけずに相次いで屋上から飛び降り自殺をする。間もなく不安に満ちた学園に幽霊騒動が持ち上がり、追い打ちを掛けるように国語教師と自殺した女性との関係が取りざたされる。そんな中、美術部の中学3年の女生徒二人が真相解明に乗り出すのだ。しかし、今度は国語教師が飛び降り自殺を!。何が真実で何が策略なのか?ホームページサイトの「ヘビイチゴ・サナトリウム」は一体?
・・・・と、まあ次々と起きる飛び降り自殺事件。調査が進むと自殺した教師の奥さんも過去に自殺、自殺した生徒の姉も自殺・・・と、謎は深まるばかり。殺人とはっきりわかるものは提示されないけど、どう考えたって・・・?とミステリーファンならずとも思ってしまうわけで、だから幽霊事件だって単なる噂とも言い切れず誰かが?・・・と、なってしまうわけで、・・・・だからサスペンスたっぷりで目が離せなくなってしまうのです。眠い目をこすり、暇さえ有れば続きを!・・・と、相成ってしまいます。ページをめくる手のもどかしさ。早くみたいぞ!解決章。何回もひっくり返されながら、こっちの頭もこんがらがって、最終章へ。長かった苦労も心地よい疲れが癒してくれます。 |
新庄節美の捕物帖「修羅の夏」は(1)隠居殺卯月大風(2)母殺皐月薄雲(3)後家殺水無月夕立、の3編が収録されています。南町奉行所定廻り同心、門奈弥之助の一人娘で盲目の美女「お冴」と岡っ引き、「わらびや清五郎」の下っ引き「富蔵」が密室殺人事件のなぞを解きます。宮部みゆきの時代小説で一層の江戸捕物帖のファンになってしまったボクにはたまらない1冊です。宮部みゆき作品で江戸庶民の階級的仕組みや経済的仕組み、生活的仕組みなどを勉強させられましたから、もう一端の江戸っ子気分で徘徊させていただきました。
捕物帖と云えば銭形平次がすぐ頭に浮かびますが、この「目明かし」と「岡っ引き」は実は全然違うものなのです。双方とも奉行所の同心の下に働く者ですで同心が手札を出して正式に十手を預かっていたのが目明かしでした。町の有力者ややくざなど実力者を登用したため、その権力をカサにして悪事を働く者などが続出し享保に目明かし禁止令が出され廃止されました。しかし、事件の処理に困った事から表向きは認められていませんが「岡っ引き」として以後も同心の下働きを勤めました。岡っ引きの下に下ぴっきと、岡っ引きも配下を置いていますが、それぞれ生業が別にありました。本編では「わらびや清五郎」は小間物屋を「富蔵」は油売りをしています。また逮捕権はないので番屋に突き出し、調べとうは、同心、奉行所が行います。
・・・・てなわけで、長屋の仕組みやら、商家の仕組みやら、時代物は学校では習わない生きている歴史が学べるのです。長屋から長屋への引っ越しなんて現在より難しい仕組みがあるんですよ。法もあるけれど、むしろ生活の知恵、社会の知恵と言った方が良いような当時のしきたりや習慣は決して不自由を感じさせるものじゃないです。そりゃ越えられない封建制や貧困もありますが、そんなもの現代だって明文化されていないだけで有るんじゃないですか??。・・・いまだに家柄が違う・・・なんてあるでしょ。結構、江戸は良い町ですぞ。(^_^)v |
「家守」歌野晶午。(1)人形師の家で(2)家守(3)埴生の宿(4)鄙(5)転居先不明、以上5篇が収録。家に纏わるミステリー。ホラーまでは行かないけれど不気味な展開で語られますが、実はちゃんとした推理小説。しっかり謎を解いてくれます。それなりに唸らせてくれます。これだけのミステリーを1冊に収められているのですから面白くないわけがない。贅沢な短編集ですね。 |
横山秀夫「看守眼」。(1)看守眼(2)自伝(3)口癖(4)午前5時の侵入者(5)静かな家(6)秘書課の男、以上6篇の短編が収録されています。今更ですが、人気の警察関係は「看守眼」の1篇だけなのに例のごとく緊張感が全偏を漂いあたかも長編小説を読んだような読後感が残る本です。ミステリアスな謎は日常的に有るであろうと思われるものばかりなのに、どんどん引き込まれてしまう。何回もそぎ落としたと思わせるような無駄のない簡潔な文章に伏線が散りばめられている様には清々しささえ感じられます。そんな簡潔さの中にも人生が、心が語られているのですから、きっと言葉選びにも一苦労も二苦労も有るのでしょうね。ボクの惚れ込んでいる作家だからと言う訳じゃありませんが、やはりお薦めの1つになってしまいました。 |
「疾走」重松清。開拓された土地を沖と呼び、以前から有った土地は浜と呼ばれていた。少年の家は浜にある。ごく普通の、ごくごく普通の家庭だった。少年には秀才の兄が一人おり両親にとっては自慢の息子だった。都市部でバブルがはじける頃、この地方都市、沖に大リゾート計画が持ち上がり地上げ屋による買収工作が激化した。・・・・そんな背景の中、高校に上がった少年の兄がイジメに遭い登校拒否、家庭内暴力と崩壊が始まる。陸上部に籍を置く少年の心に沖に住む一人の少女が住み着く。立ち退きも大部分が終了し残り数軒となった頃、沖で放火事件が多発する。地上げ屋の暴力団に疑惑が向けられるが、ある夜少年の兄が現行犯逮捕される。既に兄は壊れていた。これを期に一挙に家庭は崩壊始めるのだ。
学校でイジメが始まり、父親は職を失い、家族がバラバラになる中、少年は一人走り始める。その走った軌跡が本書である。「仲間が欲しいのに誰もいないひとりが孤立、一人でいるのが寂しいひとりが孤独、誇りのあるひとりが孤高」と説く。少年は孤高を目指して休むことなく走り始める。全速力で。著者お得意のイジメに対抗する希望がゴールの小説ではない。イジメに至る家庭崩壊を丹念に描く。それに翻弄される少年をドキュメンタリーのように冷静に見つめている。キーワードは「ひとり」だ。少年の視点で見ればバイオレンスアクションの本書から何を見出すかは読者次第と言うわけ。壮絶な闘いにひとりで立ち向い、走り続けている少年のゴールには何が待つのか?、少年には何が見えたのだろうか?。 |
「影踏み」横山秀夫。出所したノビカベこと真鍋は忍び込みのプロの泥棒。双子の弟は母と放火による無理心中、助けに入った父親も亡くした。保育士の婚約者と結婚はご破算になりながら付き合いは続いている。元婚約者はノビカベを待ち続けている。・・・出所したノビカベは逮捕されるきっかけとなった事件を洗い直そうとしている。それは、忍び込んだ家で妻が夫を殺そうとしている事が分かったからだ。一体、何が起ころうとしていたのか?、起きてしまったのか?
・・・・と、言うわけで忍び込んだ家の殺人事件を起点として、駅伝のようにたすきを次に渡しながら連作短編小説が続いていきます。探偵役はプロの泥棒ノビカベで、これがホームズばりの推理力で謎を解いていきます。ノビカベ自身の不幸な過去も絡み合い、事件そのものも面白いのですが一層深みのあるドラマに仕上がっていて、ページをくくる手が止められませんでした。例によって、散りばめられた警察内部や裏家業の専門的な話が現実感や緊迫感をもたらしています。感動のラスト、短編が見事に1つとなり絶妙の題名に納得し静かなる興奮が身体に染みこんでいきました。ミステリーファンならずとも必読の1冊です!! |
藤田宜永「キッドナップ」。生まれてすぐ産院から誘拐された。一月後、犯人の女性は逮捕され赤ん坊は生家に戻る。裕福な歯科医で不自由なく育つ。高校3年の夏休み、家から200万円持ち出して誘拐した犯人に会いにバイクで出かけたのだ。・・・・母親とも父親とも最悪の関係に陥り、遊び惚けながらも大学は出ようと思っている主人公は今なら何処にでも居る少年(いや青年か)。セックスも知り、酒も飲む。親から自立したいと思っても保護が必要と心得ており、建前だらけの生活を嫌悪しながら、自らも本音で生きられない。そんな生活、自分から抜け出すために、誘拐犯に会ってみようと決心して会いに出かける。過去を調べながら誘拐犯の現在の住まいを探し当て、出かけると海沿いの寂れた食堂の女将に収まっていた。小細工が功を奏しアルバイトとして住み込む事に成功、誘拐犯と被害者の奇妙な夏がこうして始まったのだ。
誘拐犯を捜す旅は母親を捜す旅であり、自分をも捜す旅だったわけです。誘拐犯との生活から嫌悪し憎しみさえあった母親から得られなかった物が見いだせそうな気がして正体を隠しながら生活を続けていく主人公は哀れでもあります。「・・・こう言った」「・・・あんな事した」「・・・あの態度」と母親失格、父親失格と烙印を押して憎むのは「・・こうして欲しかった」「・・・この様に言って欲しかった」と自分の甘ったれ希望像を望んでいる裏返し。動機は単純、しかし求めた所の人間関係は簡単には行かないのが現実だ。クールを装い、大人のつもりは滑稽なマザーコンプレックス。・・・と、まあ図式は簡単のようですが複雑な人間関係が入り交じって先が見えなくなります。10代の男女像は現実的であり、たぶんトータルした代表像とも云えるもでしょう。危うい綱渡りのような生き方を誰も留まらせられない現実に暗澹たる気持にさせられます。希望の光は何処まで行けば見る事が出来るのでしょうか?。果たしてあるのか? 今の大人も子供のなれの果て、今の子供はどんななれの果てになるのでしょう。 |
「殺人の門」東野圭吾。歯科医の息子として裕福な生活を送っていたものの気が弱かった小学生時代。唯一と云っても良いくらい友達として付き合ってくれたのは一人の同級生だけだった。しかし、常に騙されているのではという疑問が付きまとっていた。幾つかの事件をきっかけに、家業の医院の崩落、家庭の崩壊、両親の離婚、・・・父との生活と、多くの物を失っていく。しばらく音信不通だった同級生との再会。立ち直りつつあった生活がまた崩れていく。以後、つかず離れずの関係続き幸せの兆しが見え始めると崩壊する人生が続くのだ。全てが操られていたと分かった時、最後の線を飛び越えるのだ。
不穏なこの時代、「キミは自殺を考えた事があるか?、また殺意を持った事があるか?」と問われれば「そんなの誰にでもあるのじゃない」なんて答が軽く帰って来そうですが、その度合いの差は有れど本気で考えたら恐い事ですね。命の軽さを見せつけられるようです。単なる逃避の反対語で、怒りの反対語で頭に浮かぶくらいは、それこそ有るかも知れませんが、ホントの本気はそれほどではないでしょう。さて、殺意ってどん状況に置かれれば生まれるのでしょうか?。また生まれても実行に移すにはどんな状況が?。そんな答の1つに本書があります。殺意を持ち続けながら踏みさせずに留まり、線を越えようとしたら手を加えずとも罰が下り殺人者にならずに済んだ筈なのに、もう必要の無くなった殺意だった筈なのに殺人の門を何故くぐってしまったのでしょう? |
宮部みゆきの書き下ろし「誰か」です。探偵役は大財閥の娘を娶った一介のサラーリーマン。被害者はその大財閥の会長の運転手。被害者は地縁のない場所で自転車との衝突で運悪く死亡してしまった。名乗り出てこない犯人への怒りと捜査の遅さに業を煮やした被害者の娘二人が、亡き父の本を出版する事で犯人を刺激しようと会長に相談、広報部に籍を置く娘婿にその手伝いを命じる。その過程で被害者の過去を探る事になるのだが・・・・。娘の一人、長女は幼児の頃に誘拐された過去を持つと告白をする。闇に閉ざされた過去と自転車事故は結びつくのか?。何故、誘拐を?
・・・警察でも認定された自転車事故、その事故に隠された秘密があるのか?まさに、この一点で物語は進行していきます。娘のおぼろげな記憶の誘拐事件もひと味添えているのですが、これを含めて実に引っ張るのですね。ミステリーファンなら言わずも伏線らしきものには目が光り、作者がどこへ落とそうとしているのか無意識にも探してしまうもの。巧みに張り巡らされた本当の伏線に伏線らしきもの、そして伏線じゃないものによって最終章まで目が離せません。迷路を抜け出た行き着く先に待っているものに満足できるかはあなた次第、そんな本です。探偵役の設定が真新しいですね。財閥の娘と結婚していながら、その財を目当てに結婚した訳じゃない探偵役のサラリーマンは自分の身分に後ろめたさまで持つ、本当にごく普通の男性です。有る意味、愛って?の1つの回答でもあるのかもしれません。 |
新春第一弾は「シャッターアイランド」デニス・ルヘインです。本書の最大の特徴は珍しい袋とじ。後半、最後の章と解説が袋とじされて読む事が出来ません。これって、映画の途中入場禁止と同じですね。絶対に解決編を見てはダメという・・・・・。
犯罪者の内でも強度の精神障害者を収容する刑務所と病院を兼ねたシャッターアイランドの幾重にも厳重に警備された一室から女性患者が忽然と消える。要請を受けた連邦保安官二人がフェリーで島に降り立つが、保安官テディは妻を放火によって亡くした過去を持ち、その放火犯人も収容されている繋がりを持っている。早速、調査を開始するが関係者に不審をいだきはじめるのだ。折りもおり、強大な台風が島を襲う。部屋に残された暗号の意味は? 見あたらない放火犯、保安官テディの過去と結びつくのか? 閉ざされた島で一体何が行われているのだ?
・・・と云うわけで、密室、暗号、サイコ、スリル、サスペンス、ミステリーと盛りだくさんに詰め込まれています。何たって袋とじですから、ここでタネを明かすわけには行きませんので詳しくは語れない。つらいな〜。しかし、閉ざされた島、刑務所、老骨化した建物、台風と聞いただけで、背筋が寒くなる予感がしませんか?。ちゃんと寒くしてくれますので安心してお読み下さい。各シーンが頭に浮かんできます。気の利いた台詞やテンポの良い進行で一挙に読めてしまいます。出来れば一挙に読む事をお薦めします。驚愕のラストはきっと満足させてくれるはず。同作家の「ミスティックリバー」が映画化されましたから、本作品もいずれ映画化されるのでしょうね。なかなか映画化されて見たくなる作品って無いのですが、これは是非見てみたい作品ですね。 |
「恋火」松久淳+田中渉です。あの感動の「天国の本屋」の最新版です。人の寿命って皆100歳が上限で30歳で亡くなれば天国に70年間居られるし、80歳で亡くなれば20年間天国で過ごせます。そして、100歳になったら生まれ変わるのです。現世と同じような天国の世界ですから例え10歳で命を落としても残り90年間天国で過ごすわけですから、ホントにこんな仕組みだったら救われますね。まあ、細かくはいろいろ制約やらしきたりやら有る天国世界ですが、のんびり現世のように生活できるのでどちらで生きるのが良いのやらわかりませんね。
若くして亡くなったピアニストの叔母の面影を残す香夏子は商店街振興の為に15年前に中止になった花火大会の再開を思い立ちます。いろいろ調べて行くにつれ、その花火大会は恋人同士には特別な花火があげられていた事がわかります。一体、その花火とは?花火を作っていた花火師の消息を追うのでした。同じ頃、オーケストラをリストラされた健太は天国の本屋へ臨時雇いで連れて行かれてしまいます。置かれた立場に慌てつつも自然となれて行く健太の前に子供の頃健太にピアノの感動を与えてくれた一人の女性ピアニストと再会します。なりゆきから、そのピアニストの未完の10篇からなる曲の最後の章を任される事になrのです。かくして花火大会は開催され、何故か開場の一角にグランドピアノが置かれていたのでした。
れれっ、あらかたしゃべってしまったぞ。(^_^;) 大人の童話とでも申しましょうか、心が洗われる一編ですね。「愛とは後悔しないこと」と「ある愛の詩」。ああしてくれ、こうしてくれ、あれが欲しい、これが欲しいと求めるばかりにしか見えない今時の恋愛。何が相手に対してしてあげられるのか、見返りを求めない与える愛は消えてしまったのでしょうか。もっとも、コレは恋愛に限った事じゃないですけどね。(^_^;) |
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